日本大百科全書(ニッポニカ) 「赤礬」の意味・わかりやすい解説
赤礬
せきばん
bieberite
硫酸塩鉱物の一種。天然物は針状。合成物は底面と柱面とからなり、菱形(ひしがた)の断面をもつ単斜柱状あるいは単斜粒状。だいたい同組成の溶液が供給されるような場では、非常に微細ではあるが、この鉱物の鍾乳(しょうにゅう)石が生成されることがあるという。色からすると紅礬(こうばん)のほうが適当であるが、皓礬(こうばん)と発音が同じになってしまうので、赤礬という和名が採用された。
コバルトの二次鉱物または初生コバルト鉱物としては、輝コバルト鉱やサフロ鉱など硫砒(りゅうひ)化物やヒ化物が普通であるため、赤礬の出現はその分解物コバルト華よりまれである。日本では室内に保存されていた山梨県北杜(ほくと)市鳳来(ほうらい)鉱山(閉山)の含コバルト黄鉄鉱鉱石の表面に発生しているのが確認されたのが最初である。
同定は色、可溶性、低い硬度による。合成物では底面に平行で完全な劈開(へきかい)を確認できることがある。坑内の温度によってはCo[SO4]・6H2Oに相当するムーアハウス石moorhouseiteが生成されることがあるが、これと混在していてもわからない。英名は原産地ドイツのBieberに由来する。
[加藤 昭 2017年8月21日]