赤血球増加症の原因と分類

内科学 第10版の解説

赤血球増加症の原因と分類(総論(赤血球系疾患))

(2)赤血球増加症の原因と分類定義
 赤血球増加症とは,末梢血液単位体積あたりの赤血球数,ヘマトクリット(Ht)値,ヘモグロビン(Hb)濃度が正常範囲をこえた状態を指す.通常,男性では赤血球数600万/ μL,Hb 18.0 g/dL,Ht 55%のいずれかを,女性では赤血球数550万/ μL,Hb16.0 g/dL,Ht 50%のいずれかをこえた場合をいう.
分類
 赤血球増加症には循環赤血球量は正常範囲だが,循環血漿量の減少によるHt値の上昇を認める場合と身体全体の赤血球数が増加する場合があり,前者は「見かけの赤血球増加症」あるいは「相対的赤血球増加症」,後者を「絶対的赤血球増加症」とよんで区別している.赤血球増加症のおもな原因による分類を表14-9-2に示す.
 絶対的赤血球増加症は赤血球量の絶対的増加によって定義される疾患群で,一次性(primary),二次性(secondary),特発性(idiopathic)に分類される(表14-9-2).一次性赤血球増加症は血液細胞側に異常があるもので真性赤血球増加症(真性多血症)(polycythemia vera:PV)に代表される.二次性赤血球増加症はエリスロポエチン(erythropoietin:EPO)産生亢進によって赤血球系細胞の過剰増殖をきたしたもので,基礎疾患はさまざまである.二次性赤血球増加症のなかには腎細胞癌のように生命を脅かす可能性のあるものも含まれているので,その原因を明らかにすることが重要である.また真性赤血球増加症と鑑別することにより,不必要な抗腫瘍薬投与による二次性白血病を回避することができる.さらに原因の明らかでないものを特発性赤血球増加症とよぶことがあるが,あくまでも除外診断であり,のちに真性赤血球増加症に進展する症例や二次性赤血球増加症の症例が多く含まれた疾患群と考えられる.
鑑別診断
1)下痢,発汗亢進などの脱水による血液濃縮状態:
下痢,発汗亢進などの脱水や火傷によって循環血漿量が減少すれば見かけの赤血球増加症になる.Ht値の上昇をみた場合,はじめに下痢,発汗亢進などの脱水によって血液が濃縮状態に陥っていないかどうかを調べる必要がある.具体的には皮膚弾力の低下(handkerchief sign),眼圧低下,粘膜・皮膚の乾燥,頻脈の有無などを調べる.それが否定されれば,ストレス赤血球増加症【⇨14-9-9)】か絶対的赤血球増加症のいずれかを考える.
2)喫煙:
喫煙について聴取することは重要である.大量喫煙者にしばしば中等度の赤血球増加症がみられる.喫煙によって酸素と結合しないカルボキシヘモグロビンが血中に増加するために,一定の酸素濃度を保つようにEPOの産生が亢進し,赤血球数が増加すると考えられている.禁煙後数カ月を経ても赤血球数が正常に復さない場合にはストレス赤血球増加症の可能性がある.
3)家族歴:
家族歴をよく聴取することも重要である.異常ヘモグロビン症のなかにはヘモグロビンと酸素との親和性が高いために末梢組織での酸素受け渡しがうまくいかず,組織は酸素欠乏状態になり,腎臓でのEPO産生が亢進し,赤血球増加症をきたすものがある(Hb Hiroshima,Hb Yakimaなど).最近ではEPO受容体遺伝子変異,EPO発現を促進する転写因子hypoxia-inducible factor-1α(HIF-1α)にユビキチンを付加し蛋白分解へと導くVHLの遺伝子異常による家族性赤血球増加症の症例も報告されている【⇨14-9-11)】.
4)低酸素状態:
動脈血酸素飽和度の低下は心肺疾患,動静脈短絡,低換気症候群(Pickwick症候群)などでみられる.Pickwick症候群は肥満による気道の狭小化と有効換気の減少によって生じる低換気がおもな要因で,睡眠中の舌根沈下による咽頭腔の狭小化によって生じるいびき,傾眠傾向,睡眠時無呼吸,さらには睡眠障害がみられるので,睡眠中の状態を家族によく問診する必要がある.
5)症状:
絶対的赤血球増加症の症状は循環血液量と血液粘稠度の増加によるもので,頭痛,頭重感,めまい,倦怠感,易疲労感などを訴える.結膜の充血,赤ら顔もみられ,しばしば高血圧症を伴う.さらに真性赤血球増加症では好塩基球などの増加に伴う高ヒスタミン血症で消化性潰瘍をきたすことが多いので,胃のもたれや痛みに注意する.入浴後の皮膚瘙痒感や脾腫も真性赤血球増加症に特徴的である.
検査計画の立て方
(図14-9-3)
1)循環赤血球量測定:
循環赤血球量は51
Crを用いて希釈法により計算する.真性赤血球増加症の診断基準に準拠して男性36 mL/kg以上,女性32 mL/kg以上を絶対的増加としている.増加が認められれば,ストレス赤血球増加症は除外される.最近では実施しない施設が多く,Hb値(男性18.5 g/dL,女性16.5 g/dLをこえる)で代用することが多い.
2)JAK2チロシンキナーゼ遺伝子変異解析:
真性赤血球増加症ではサイトカインの細胞内シグナル伝達において中心的な役割を担うJAK2チロシンキナーゼの遺伝子変異がほとんどの症例で検出される【⇨14-9-10)】.したがって真性赤血球増加症とほかの赤血球増加症との鑑別に有用である.
3)血中EPO測定:
測定が容易になったため,エリスロポエチン(EPO)測定の検査的価値は高まっている.一次性赤血球増加症と二次性赤血球増加症との鑑別に有用で,血中EPO濃度の上昇は二次性赤血球増加症の存在を示唆する.腎細胞癌や肝細胞癌では腫瘍細胞がEPOを産生することがある(EPO産生腫瘍).腫瘍摘出による赤血球増加症の改善がみられることや,腫瘍組織におけるEPOmRNAや腫瘍組織培養上清中のEPO活性を検出することで診断される.
4)動脈血酸素飽和度測定:
低酸素状態によって生じた赤血球増加症を診断するために必須の検査である.
5)遺伝子解析:
真性赤血球増加症や二次性赤血球増加症が否定され,家族集積性があればEPO受容体遺伝子異常症などを疑い,遺伝子解析を行う【⇨14-9-11)】.[小松則夫]
■文献
Hoffman R, Xu M, et al: The polycythemias. In: Hematology, 5th ed (Hoffman R, Furie B, et al eds), pp1073-1108, Elsevier Inc., Philadelphia, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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