日本大百科全書(ニッポニカ) 「超伝導マグネット」の意味・わかりやすい解説
超伝導マグネット
ちょうでんどうまぐねっと
superconducting magnet
超伝導体を用いて強磁場を発生させる電磁石のこと。具体的には、第2種超伝導体の線材をコイル状に巻き、直流電流を流して中心に磁場を発生させる装置をいう。鉄心をもつ電磁石は、2T(テスラ)程度までの磁場を得るために利用されるが、これは、鉄の飽和磁化が2T程度だからである。それ以上の強磁場を得るためには、空心コイルに電流を流す方法を用いなければならない。コイル素材として銅線を用いると、電気抵抗による発熱を冷却することと、大電力が必要になることが大きな問題である。しかし、超伝導体を線材として用いれば、電気抵抗がゼロなので発熱もなく小電力で十分という大きな利点がある。また、超伝導マグネットには、簡単な付加回路により、電源から電流を一度供給したのち電源を切り離しても、永久電流により磁場を保持することができるという性質がある。
以上は超伝導マグネットの利点であるが、一方では、大きな二つの泣きどころがある。第一は、使用時に極低温を必要とすることである。超伝導体が電気抵抗ゼロの超伝導状態になるのはある臨界温度(TC)以下であるが、現在(21世紀初頭)マグネットに使われている超伝導体の最高のTCは約20K(絶対温度)だからである。そのため液体ヘリウムを使わねばならず、マグネットよりはるかに大きな金属魔法瓶が必要になる。ただし、最近(21世紀初頭)では、液体ヘリウムを使わない冷凍機で働くマグネットも開発されてきた。第二は、ある臨界磁場より強い磁場をかけると超伝導状態が破れることである。このため、超伝導マグネットには最高磁場に制限がある。2002年(平成14)に、日本の物質材料研究所で世界最高の22Tのマグネットが開発された。第二の問題と関係するが、高磁場で使うときにはクエンチという面倒な現象がおこることがある。磁場の変化が早すぎたりすると超伝導状態が破れる現象である。前述のように、超伝導マグネットには長所と短所があるが、大きな長所のゆえに、超伝導マグネットの利用は、基礎・応用の両面で、ますます普及しつつある。
コイル素材としては、第2種超伝導体であるNbTi合金の極細多芯線、Nb3Sn線などが使われている。1986年にTCが約40Kの酸化物高温超伝導体が発見され、その後より高いTCをもつ酸化物(銅を含むいくつかの金属の複雑な酸化物)が次々に発見され世界に大熱狂を巻き起こした。最高のTCは100Kを超えた。液体窒素温度(77K)で超伝導体が利用できるので、実用面・産業面に革命を起こすと期待されたが、21世紀に入ってもいまだ実用の段階に達したとはいいがたい。酸化物なので線材をつくることがむずかしいのである。
以上は、超伝導体のみを用いた超伝導マグネットである。より強磁場を得るために、水冷式の電磁石の外側に超伝導マグネットを配置したハイブリッド磁石がつくられているが、非常に大型の装置になる。東北大学金属材料研究所では、23Tと30Tのハイブリッド磁石が活躍している。フランスでは、2001年に45Tが達成されている。
[宮台朝直]
『増田正美編著『超伝導エネルギー入門』新版(1992・オーム社)』▽『低温工学協会編『超伝導・低温工学ハンドブック』(1993・オーム社)』▽『本河光博著「強磁場の発生と応用Ⅱ」(『日本応用磁気学会誌』Vol.27, No.7所収・2003)』