改訂新版 世界大百科事典 「輪栽式農法」の意味・わかりやすい解説
輪栽式農法 (りんさいしきのうほう)
Fruchtwechselwirtschaft[ドイツ]
近世ヨーロッパで完成された農法で,穀物を中心とする輪作体系のなかに飼料作物の栽培を組み込み,地力の維持増進と耕地の高度利用をはかる方式をいう。古来ヨーロッパの畑作農業では,作物栽培に伴う地力の減退を防止する目的で,各種の農法が考案されてきた。古く南ヨーロッパの農村共同体では,耕地を2分し,一方に穀物栽培を行い,他方は休閑地として地力の回復と土壌水の確保をはかり,年次を追って両者を交代させていく二圃(にほ)式農法が一般であった。やがて中部ヨーロッパに拡大した農業においては,耕地を3分し,3分の1の耕地を休閑する三圃式農法(三圃制)が一般化してくる。いずれも栽培される農作物はコムギ,オオムギなどの穀類であり,これらの農法は一括して主穀式農法と呼ばれる。その後三圃式農法は,休閑地に牧草を栽培する改良三圃式または穀草式と呼ばれる農法へと展開していくが,さらに18世紀の初めには,耕地を4分し,穀類と牧草および根菜類を順次作付けする四圃式の輪栽農法がタウンゼンドCharles Townshend(1674-1738)の考案,努力によってイギリスで確立する。
イギリス,イングランド東部の発祥地にちなんで名づけられたノーフォーク輪栽Norfolk rotationは,4分された耕地に順次コムギ,飼料カブ(根菜),オオムギ,アカクローバーを輪作し耕地を運用することを基本としている。それまで集落近辺の園地で集約的に栽培されていた飼料カブを,広大な耕地で栽培するために案出された畜力条播(じようはん)機および中耕機は,それまで粗放的に栽培されていた穀類にも適用されることになる。一方,豊かな飼料生産は耕地に還元される堆厩肥(たいきゆうひ)を増加させ,アカクローバーによる空中窒素の固定とあいまって,地力の増進がはかられることになった。これら諸要因が関連して,世に〈カブ革命〉といわれる農業の生産性の飛躍的発展がもたらされた。これを契機としてエンクロージャーが進行し,農村共同体の崩壊が起こってくる。
→輪作
執筆者:山崎 耕宇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報