家畜や家禽(かきん)の餌(えさ)とするために栽培される植物。牧草や飼料用根菜類だけでなく,普通は子実やいもを人間が食用としている作物であっても,これを家畜の餌用に栽培する場合は飼料作物とされる。たとえばトウモロコシやオオムギ,ライムギ,ダイズ,サツマイモなどの子実やいもは,人類にとって重要な食糧であり,一般には食用作物として扱われるが,これらの子実やいも,茎葉を餌として与えるために栽培される場合は飼料作物として扱われる。飼料作物は,茎葉または地下部や子実など利用できるところはすべて餌として与えるが,茎葉を中心とした家畜への与え方には,放牧,青刈り,乾草(ほしぐさ),サイレージなどがある。
放牧は,草地に家畜を放し,牧草を自由に食べさせることで,広い面積を利用して粗放な畜産経営を行う場合に適した方式で,また家畜の健康にもよいとされる。放牧地の牧草とする飼料作物は,永い年月にわたって変わることのない草地植生を維持し,また1年のうちでもなるべく長い期間生産があがるうえに,家畜に食べられることや踏まれることに対して強くなくてはならない。放牧地に栽培される牧草にはイネ科のオーチャードグラス(カモガヤ),ケンタッキーブルーグラス(ナガハグサ),ジョンソングラス,トールフェスク,ペレニアルライグラスなど,またマメ科のアカクローバー,シロクローバー,アルファルファなどがある。普通,イネ科とマメ科の牧草を1ないし数種ずつ混播(こんぱ)し,長い間続けて高い生産性を維持するくふうがなされており,これはまた家畜の飼料として栄養的にもすぐれている。
青刈りとは,普通の畑に飼料作物を栽培し,刈り取った茎葉を生のまま家畜に食べさせる方法である。毎日必要量を収穫して給餌する作業労力はかなりかかるが,生産量が多いため,放牧よりは少ない土地面積で畜産経営ができる。青刈り作物には食用作物と共通するものが多く,主要なものにはイネ科のトウモロコシ,スーダングラス,ライムギ,エンバク,マメ科のアルファルファ,クローバー類,ダイズなどがある。
乾草とは,主として刈り取った牧草の茎葉を手早く乾かしたもので,それを貯蔵しておき,必要に応じて家畜に与える。生草の不足する冬季には,後述するサイレージとともに重要な飼料となる。乾草は,乾燥が十分で緑色を保ち,香気のあるものが上質とされる。乾草とする飼料作物にはイネ科のオーチャードグラス,チモシー,イタリアンライグラス,エンバクなど,マメ科のアルファルファ,クローバー類など多くのものがあるが,茎葉が繊細なものが乾草に作りやすい。
サイレージとは,未熟な子実を含む茎葉や根菜類など多汁質の飼料作物を,刻んでサイロなどに詰め乳酸発酵させたもので,貯蔵性がよく,また家畜が好み,消化もよい。サイレージ用とする作物の代表はトウモロコシで,中でもデントコーンの利用が多い。ほかにソルガムやパールミレット,ヒマワリ,ダイズなどがサイレージにされる。
子実を飼料とするのはおもに穀類で,トウモロコシ,グレインソルガム,ムギ類,ダイズなどが利用される。穀物の多くは加工されて配合飼料にされる。
おもに地下部を飼料とするのは,いも,根菜類で,サツマイモ,ジャガイモ,飼料用ビート,飼料用カブ,飼料用ニンジン,スウェーデンカブなどである。多くの場合,これらの地上部も飼料とするが,貯蔵性などの点から主体となるのはいもや根である。
→牧草
執筆者:星川 清親
日本は牧場,牧草地がひじょうに少ないため,粗飼料(牧草,農作物の茎葉など)の生産が少なく,濃厚飼料(トウモロコシ,いも類,ふすま,油かす,魚粉)への依存度が高い。濃厚飼料供給量は2920万tで,飼料供給量全体の約80%(可消化養分総量比)を占めるが,そのうち2150万tが輸入ときわめて輸入依存度が高い(1994年度)。おもなものは飼料用トウモロコシと飼料用グレインソルガム(モロコシの一種)で,アメリカおよびアルゼンチンからおもに輸入している。
執筆者:黒田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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家畜の飼料にする目的で栽培される植物の総称。生草、乾草またはサイレージ(多汁質の飼料作物を刻んでサイロなどに詰め乳酸発酵させたもの)として貯蔵して給与する牧草類はもちろんであるが、穀物やいも類なども飼料用に栽培する場合は飼料作物として取り扱われる。もっともよい例はトウモロコシで、スイートコーンは人間の食糧を目的とした種類であるが、主として飼料用に栽培されるものにデントコーンや青刈り用(栽培作物の茎葉を刈り取って生草のまま家畜に給与するもの)の種類があり、これらは飼料作物ということになる。
飼料作物のうち主体をなすのは茎葉を飼料とする牧草類の仲間で、それらの具備すべき条件は、生草として栄養価が高く、踏圧に耐え、再生力、生産力が大きく、家畜の嗜好(しこう)性にあい、乾草にしやすく、しかも無毒であることなどである。また作付けの転換が容易で、土壌、気象等の諸環境条件に適応性が広く、イネ科植物、マメ科植物の混合播種(はしゅ)にも適し、多年生で、耐寒、耐干、耐暑、耐病虫性に優れ、採種が容易で、種子の発芽力も長期にわたり低下しないことが望ましい。
おもな飼料作物は、イネ科では、トウモロコシ、エンバク、オーチャードグラス、イタリアンライグラス、マメ科ではアカクローバー、シロクローバー、アルファルファ、ベッチ類などである。そのほかにも飼料用のカブ、ビート、カボチャなどがある。
[山本三夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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