翻訳|fallow
休閑は耕作を休んで放置しておくだけのことではなく,地力の維持・回復,雑草防除,保水という三つの機能を伴って行われている農業技術の一つである。休閑が歴史上重要な役割を果たした一例は,古代ローマ帝国などの乾燥地農業における保水のための休閑である。年降水量500mm以下あるいはそれ以上でも降雨が季節的に偏っていたり,風が強く蒸発量が多い等の場合は自然のままでの作物栽培は困難である。それらの場所では少ない雨を土壌中に保持して有効に利用するために,1年あるいはそれ以上の期間休閑とし,その間,犂(すき)でしばしば表土を浅く耕し,土壌中の毛管を切断して蒸発を抑制,保水し,翌夏にミレット類,マメ類を,あるいは冬にムギ類を栽培した。西南アジア,インド北西部,地中海北部などのうち,灌漑水の得られない乾燥地帯では,わずかな降雨による水分を保持するための休閑保水によってはじめて作物栽培が可能となり,灌漑農法とともに,休閑農法はそれらの地域における古代文明を築き上げる支えとなった。
雑草防除のための休閑の典型は,封建時代ヨーロッパの開放耕地制度の下での三圃農法(三圃制)における休閑である。村の共同耕地は利用上3分割されて,冬穀-夏穀-休閑が順次繰り返された。畜力用の条播機,中耕除草機がなかったために,散播,厚播きして雑草を抑制する栽培方法がとられた。雑草の種類も量も比較的少ない北ヨーロッパでは,これでも2年目までの穀作は可能だった。しかし,3年目には休閑して1年がかりで雑草排除に専念しなければならなかった。その方法は休閑耕と呼ばれるもので,春季の浅犂耕,ハロー掛けの繰返しで1年生雑草を発芽させては死滅させ,徹底除草をはかり,宿根性雑草は夏季高温時に深耕・反転して根茎を拾い出し,また乾燥枯死させた。また地力増強のために休閑中に堆厩肥を施し,それに含まれる雑草種子の死滅をもはかった。耕耘(こううん)には連畜牽引の大型有輪犂が使われた。三圃式に続く穀草式農法でも7年に1回は除草のための休閑が残り,小型軽量鉄製の揺動犂,条播機,中耕除草機の開発による条播・中耕・輪栽式農法の確立する13世紀末まで,除草のための休閑を解消することはできなかった。この三圃式と同様の意味をもつ休閑は歴史的にも地理的にも広く分布している。
現在でも重要なのは焼畑における地力回復のための休閑である。熱帯を中心として,焼畑農法が世界の2億人以上の人々の暮しを支えている。焼畑は作付けと地力維持のための休閑との調和の上に成立しており,そこでの自然,作物,栽培の条件によるが,湿潤熱帯では1~3年の作物栽培で5~15年の休閑を必要とする。地力回復のための休閑は,古代中国の稲作や東南アジアのタロイモ栽培などの水田においても行われた。
湿潤温暖で雑草の繁茂する日本では,休閑除草ではなく,〈上農は草をみずして草をとり,中農は草をみて草をとり,下農は草をみて草をとらず〉と言いふるされてきたように,絶えず雑草を除去する中耕除草が農業技術の一つの要であった。日本の耕地雑草は約450種,水田で防除が問題となる草種は約30種もある。1年休耕すると,風乾重1kg/m2近くの雑草が生える(関東,乾田)。また水田農業では,灌漑水による養分流入,湛水(たんすい)条件による土壌有機物分解の抑制が地力維持を助け,地力回復休閑を必要としなかった。畑作においては,休閑は雑草の繁茂による荒廃化を招くことになり,また地力の消耗は畑面積が小さいために人力作業による系外有機物の持込みで補うことができた。これらの条件のために,日本においては焼畑以外に休閑を伴う農法を必要としなかった。
執筆者:塩谷 哲夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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