デジタル大辞泉 「轎」の意味・読み・例文・類語
きょう〔ケウ〕【×轎】
2 乗り物。かご。
中国,朝鮮で用いられる乗物の一つ。かごかき(輿丁,轎伕)が人を乗せて前後から舁(か)いてゆく駕籠(かご),輿(こし)。轎には手で轅(ながえ)を腰のあたりにもたげて担う手輿(たごし),腰輿(ようよ)と,轅を肩にかつぎ上げて運ぶ肩輿(かたごし)(あげごし)とがある。
現代漢語では〈轎子〉と総称する。轎子は地区によって結構も形状も異にし,木質ないし竹質である。その使用・機能はさまざまで,最初の轎は〈平肩輿〉と呼ばれたという。もともと轎は竹を編んでつくった輿をさし(《古今韻会》),山駕籠としてすでに漢代に見られたが,一般的な乗物ではなかったようである。唐代におよんで,ようやく人が人をかつぐ風俗が一般化してきた。そして四方に檐(ひさし)のない轎を兜輿(とうよ)また兜子ともいい,檐のあるものは檐子(たんし)と称した。ともに肩輿に属するもので,唐代には主として婦人用であったが,後唐ころになると男子もそれに乗った。轎子と俗称されるようになったのは宋代からである。明・清時代におよんで,県知事(知県)以上はみな出入りには轎を用いた。〈官轎〉というのがそれで,清代における官轎の制は,その轎帷(かごかけ)の色で等級を区別し,親王乗用のものが赤色で,緑轎は三品以上の大官乗用に限られ,また位階に応じてかごかきの数に制限があった。官轎のほか民轎と分類されるものがあり,通例2人舁きの小形の轎で,一般人が用いることができた。しかし,婚礼のときは大轎を使ってもよいことになっていた。婚礼のときに花嫁の乗る輿は喜轎,花轎と呼ばれ,朱漆塗で金蒔絵(きんまきえ)や浮彫がほどこされたり,まわりに網目のある流蘇つきの赤布ではなやかに装飾してある。多くは4人舁きであるが,8人舁きの大轎もある。葬列に加わる轎には,遺影または紙製の位牌をおいてその前で香をたくようになっている〈香亭〉というのがあり,霊柩の前にあって故人の霊魂がこれに座乗するとされ,空のままかつぐ轎を領魂轎,棺を運ぶ轎を喪輿といい,天蓋に銀白の鳳凰の飾りがついていて,前後おのおの16人によってかつがれる大轎もある。
黄河を境として北は竹の産が少ないため,たいていは木製の轎で,腰輿にして轅が2本,それも人の乗る部分の中央側部にさし添えてかつぐようにできている。外部を緑または藍色布でおおい,内部にいす形のものを設けて座席とし,前面には,帷(とばり)か簾(すだれ)を下げてあるのが一般である。かつぐ人数によって,二人小轎,四擡官轎,八擡大轎などの名称が与えられる。木轎で珍しいのは行路轎で,おもにモンゴル地方における長途旅行用のもので,それを人のかわりに2頭の騾馬(ラバ)がかつぐ。2頭が前後に,めっきした轅につながれて正方形の轎をささえている。轎の中は腰掛式でなく,足を組んですわる。騾轎ともいう。甘粛省,新疆ウイグル地方の駱轎または駝轎にはラクダが使用され,騾轎とともに砂漠をゆくキャラバンにつきものである。黄河以南の各地には竹轎が多い。一般名は篼子で,竹輿,竹兜,兜輿,山兜,笋(または筍)輿,箯輿,籃輿,過山轎,轎,竹奴などの異称がある。2人舁きの肩輿である。平地の道路に常用する普通轎に対し,山登り用は山轎という。蘇州付近の天平山の山遊びの山轎のかごかきは男ではなく〈妙齢の少女〉である。北京の通称〈西山轎子〉というのは4人舁きの竹肩輿で,帷も天蓋もない。江西省の廬山や,霊境といわれる泰山や五台山の登山用の竹轎(爬山轎,南方では滑竿という)も同様である。香港島にも竹肩輿が見られた。香港は坂道が多く,ケーブルカーその他の乗物が出現するまで轎がさかんに使われた。四川省の重慶も香港と同様。台湾でも中国本土と同じように轎が使われていた。
以上は人を乗せる〈人轎〉であり,これに対して〈神轎〉がある。神轎は通俗道教の祠廟に備わるおみこし(神輿(しんよ))である。そのまつる神が毎年定期または数年1回,管内にはびこる邪悪や流行病などを予防駆除して平安豊年をもたらす意味でのおねり(繞境)をする際,もっぱら神像の乗座に供するものである。神像法身がたいてい常人に比べて雄偉でがっちりしているから,神轎は一般の人轎よりも大振りにつくられ,かつ威儀を保ち,目だったこしらえであり,一見してそれとわかるのである。
もと中国伝来の朝鮮の轎は,手輿に属するものが多く,屋形などが違うが,だいたい日本の塗板輿(ぬりいたごし)に似ている。朝鮮の特権階級である両班(ヤンバン)の婦人は,外出するとき必ず轎に乗るならわしであった。女輿の出入口には,簾が垂れ下がり,内部の人を隠す。男子の乗る轎も女輿と大差なく,ただその出入口に簾がない。なお,かつては朝鮮でも中国と同じく,官吏の出入りには轎を用い,位階に応じての制限もあった。
執筆者:中野 輝雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…中国における道教の祭祀の一つ。《隋書》経籍志の道経序録によれば,醮とは災厄を消除する方法の一つで,夜中,星空の下で酒や乾肉などの供物を並べ,天皇太一や五星列宿を祭り,文書を上奏する儀礼をいう。のちには斎(ものいみ)の儀礼と結合して斎醮と呼ばれ,この斎醮の際に上奏する文書を青詞といった。唐・宋以後,道教の代表的な祭祀として広く行われ,近代になっても,亡霊を救済する黄籙醮(こうろくしよう),帝王のための金籙醮,あまねくいっさいを救済する羅天大醮などが行われた。…
※「轎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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