農具便利論(読み)のうぐべんりろん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「農具便利論」の意味・わかりやすい解説

農具便利論
のうぐべんりろん

農業技術書。著者は大蔵永常(おおくらながつね)。1822年(文政5)刊。上中下三巻よりなる。上巻は、自序、総論に続いて、鍬(くわ)、鋤(すき)、代掻(しろか)き用具熊手(くまで)、除草用鍬などについて、使用の便利だけではなく、仕様書をみればその農具をつくることが可能なほど詳細な記述がある。それに続いて、夏の干魃(かんばつ)のとき井戸から水を引く法とか、小農具に触れている。中巻はやや個別の農具、たとえば培土用具から、イモ植車、あるいは地下足袋(じかたび)風のくふうや、畜力犂(すき)、人力犂その他が記されており、とくに千歯扱(せんばこき)などを紹介して、農民が新しい道具を受け入れることを強調している。下巻は、やや大掛りな揚水機の紹介だが、ここではオランダ製の揚水機まで説明している。これらはそれを使っている風景まであって、それが広く読まれる原因ともなっている。

[福島要一]

『山田龍雄他編『日本農書全集15 除蝗録・農具便利論・他』(1977・農山漁村文化協会)』


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改訂新版 世界大百科事典 「農具便利論」の意味・わかりやすい解説

農具便利論 (のうぐべんりろん)

幕末の農学者大蔵永常著書で,《広益国産考》とならぶ主著の一つ。全3巻。1822年(文政5)刊。全国各地で使用される農具のうち,ひろく普及の価値ありと考えられるものを,こまかく絵入りで説明している。耕耘(こううん),種まき,除草,施肥給水収穫,調整など各作業ごとの用具をとりあげるが,とくにくわに詳しく,各種のくわの刃の長さと幅,柄との角度など,一つ一つ数字をあげて解説し,江戸時代の農具の最も詳しい実用的図鑑になっている。選定の基準は効率のよさで,労力を節減して利益を高める労働生産性の向上がめざされ,永常の合理性がしめされている。また本書記載以外のすぐれた農具を出版元に知らせてほしいとの呼びかけがなされ,こういう本は世界的にもめずらしいと評価されてきた。明治以後もいくどか印刷出版され,江戸時代の農書中最も知られたものの一つである。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「農具便利論」の解説

農具便利論
のうぐべんりろん

近世後期の農学者大蔵永常(ながつね)の農具を論じた著作。上中下3巻。1822年(文政5)刊。上巻では農具と作物地質にあわせて農具を選択する必要性や各地の鍬・鋤など,中巻では播種や管理用の農具など,下巻では灌漑器具・揚水機・船などを図解している。異版も多く,文政版・天保版・明治版本が確認される。「日本農書全集」所収。

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旺文社日本史事典 三訂版 「農具便利論」の解説

農具便利論
のうぐべんりろん

江戸後期,大蔵永常 (ながつね) の農業技術書
1822年刊。3巻。全国各地の農具を綿密に調査し,農具の種類・形態・機能を分類,その利害得失を記述した。

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世界大百科事典(旧版)内の農具便利論の言及

【農具揃】より

…飛驒国(岐阜県)高山に隣接する蓑輪村で,大坪二市(1827‐1907)が1865年(慶応1)に書きあげた農書だが,公表されたのは明治初期である。1月から12月まで各月別に,年中行事,各種の農村習俗を記載しているが,書名どおり中心は月ごとに使用される農具の説明で,約350種がとりあげられ,大蔵永常著《農具便利論》などとともに貴重な史料である。ことわざや方言などの紹介も多く,狭義の技術書というより民俗学的記録として興味深い。…

※「農具便利論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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