干魃(読み)かんばつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「干魃」の意味・わかりやすい解説

干魃
かんばつ

降水が異常に少なく、河川の水量も減少して、ダムや溜池(ためいけ)、井戸の水が涸(か)れる現象。このために農作物や果樹の生育が損なわれ、ひどいときには枯死する。日本の干魃の原因は、夏季に太平洋高気圧が一気に勢力を増して、日本付近を覆うためで、梅雨前線なども十分な雨を降らせないままに北上し、いわゆる空梅雨になることによる。干魃の程度は、比較的気温の高い西日本から沖縄県方面に著しく、北日本ではむしろイネは豊作に転ずることが多い。冬に太平洋側の地方では、夏をしのぐほど干天が続くことがあるが、電力などは別にして、農作物は夏の水不足ほどの影響は受けない。これは、冬は夏に比べて水分の蒸散が少ないからである。

 干魃は、太陽のエネルギーは十分すぎるほどにあることから、水分を補給する灌漑(かんがい)施設が整えば、その被害を防ぐばかりか、農作物は豊作に転ずることができる。日本では、1950年代以降、多目的ダムなどが河川に設けられ、灌漑用水が確保されたので、農作物の干害は少なくなった。日本は周囲が海で、比較的湿潤な気候であるので、干魃の年は局地的には不作の所があっても、イネなどは全般的には豊作な所が多く、このため「日照りに不作なし」などといわれる。しかし、人口の都市への集中が高まり、また生活様式の向上とともに生活用水の使用量が飛躍的に増加したため、大都市では生活用水の慢性的な不足が問題となってきている。また、沖縄では地形的に十分な貯水池を設ける余裕もなく、水不足が常態化している。

 昭和10年代以降の干魃の年をあげると、1939年(昭和14)(西日本、中部日本。干魃面積が広かった)、1947年(中部以西)、1951年(西日本、中部日本)、1967年(九州、四国)、1973年(全国的)、l978年(全国的であったが、とくに福岡地方での給水制限は翌年にまで及んだ)、1984年(全国)、1985年(中国~東北)、1994年(平成6)(全国)、1995年(沖縄~北陸)がある。また、2021年(令和3)には北海道を中心に100年に一度といわれるような少雨と高温によって干魃が発生している。

 世界的にみると干魃はもっとも規模の大きい災害につながる。アフリカの東部から中部にかけての干魃は、1970年代以降、断続的に続いている。この地帯政情の不安もあって、1000万以上の人々の飢餓の問題に発展している。2000年以降は、地球温暖化に伴う全地球的な気温の上昇傾向があり、アメリカ合衆国やヨーロッパ、インド、中国、ロシア、オーストラリアなどでも規模の大きな干魃が頻発している。2022年7月には、偏西風の蛇行に伴って南からの暖かい空気が流入しやすかったことも加わり、ヨーロッパ東部から北アフリカにかけての広い範囲で、記録的な高温にみまわれ、ヨーロッパ東部から西部では記録的な干魃となって、少なくとも過去500年で最悪の渇水状況であると報じられた。

[饒村 曜 2023年3月17日]

『気象庁観測部編・刊『全国の干ばつの記録(明治以降)』(1992)』『丸山浩明著『砂漠化と貧困の人間性――ブラジル奥地の文化生態』(2000・古今書院)』『中村哲著『医者井戸を掘る アフガン旱魃との闘い』(2001・石風社)』『高橋裕著『地球の水が危ない』(岩波新書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「干魃」の意味・わかりやすい解説

干魃
かんばつ
drought

長期間にわたり降水がないか,あってもわずかであることによって起こる異常な乾燥状態。農作物の干害,電力用水や都市用水の不足など,水不足が社会生活,経済活動などに与える影響は大きい。日本では梅雨または台風による雨が少ないと干魃になりやすい。

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