翻訳|tillage
作物の播種(はしゆ)・植付けの準備として,耕地の土壌を掘り返して砕き膨軟にすること。耕地では作物の生育中に人間や機械に踏みつけられたり,雨に打たれたりすることから,土壌の表層部が固まってくる。したがって,次の作物の作付け前に耕耘を行うが,その目的には次の点があげられる。(1)土壌表層を軟らかくして通気性,通水性などの物理性を改善し,作物の根の生育に好適な環境を準備する。(2)土壌表面に残された前作の刈り株,雑草,堆肥などを土中に埋め込み,播種・移植作業の障害とならないようにするとともに,地表に落下している雑草種子を埋め込んで発芽を抑制し,除草効果をあげる。(3)表層の土壌を軟らかくして,後続作業である圃場(ほじよう)面の均平化,あぜの成形などが容易になるように準備する。
耕耘作業の起源はきわめて古く,人類が農耕を開始したときにバナナやいも類の植付け穴を掘棒で掘った作業も,一種の耕耘といえる。人類はその後掘棒から人力の鍬(くわ)へ,またもう一つの流れは畜力,機械力による犂(すき)へと耕耘用具を発展させてきた。日本では,弥生時代には木製,鉄製の鍬,鋤(すき)が耕耘用具として用いられ,奈良時代に畜力の犂耕(りこう)が始まった。その後,人力耕を中心とした畜力耕との併存時代が続いたが,明治末に日本式の犂(短床犂)が開発されるに及んで畜力耕が広く普及した。第2次大戦後は耕耘機,トラクターによるロータリー耕が急速に普及し,犂の使用は限られたものとなっている。耕耘には,土壌を側方へ投げ出しながら反転させる撥土板(はつどばん)付きの犂と土の移動反転を伴わない撥土板なしの犂や鍬が用いられるが,ロータリー耕は機能的には後者に属する。日本で現在ロータリー耕が圧倒的に多く使われている理由は,水稲作を中心に機械化が進められ,田面を水平に保つために土の側方移動を嫌ったことによっている。特殊な耕耘としては,西欧の三圃式農法の休閑畑における除草を目的とした休閑耕,犂耕を続けた場合に犂の通る直下の土が硬くなる(耕盤)が,これを破壊する心土耕,下層土の改良や表層土と下層土の混合を目的とした混層耕,天地返しなどがある。
執筆者:春原 亘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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