デジタル大辞泉
「違」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
たが・う たがふ【違】
[1] 〘自ワ五(ハ四)〙
① 二つ以上の物がかみ合わなくなる。いっしょにならなくなる。
※
古事記(712)中・
歌謡「後
(しり)つ戸よ い行き多賀比
(タガヒ) 前つ戸よ い行き多賀比
(タガヒ) うかがはく 知らにと」
※
大和(947‐957頃)二「うちより少将、中将、これかれ、さぶらへとてたてまつれたまひけれど、たがひつつありきたまふ」
②
事柄の内容がくいちがう。ぴったりと合わなくなる。異なる。
※古事記(712)序「諸家の
る帝紀及び本辞、既に正実に違ひ、
多く虚偽を加ふ」
※竹取(9C末‐10C初)「
かぐや姫のたまふやうにたがはず作り出つ」
③ 物事にそむく。裏切る。さからう。反対する。
※
万葉(8C後)一四・三三五九「
駿河の海磯辺
(おしへ)に生ふる浜つづら汝
(いまし)をたのみ母に多我比
(タガヒ)ぬ」
※今鏡(1170)六「仏の道にこそは入らせ給はめと故大臣殿のたまはせければ、それにたがはず、若くおはするに、御ぐし下ろし給ひたる」
④ (「仲をたがう」の形で) 人間関係がしっくりいかなくなる。仲たがいをする。→
仲をたがう。
⑤ いつもと変わる。正常でなくなる。おかしくなる。
※竹取(9C末‐10C初)「
かいにもあらずと見給ひけるに、御心ちも
たかひて」
※大鏡(12C前)一「こほりふたがりたる水を多くかけさせたまけるに、いといみじくふるひわななかせたまて、御いろもたかひおはしましたりけるなむ」
[
語誌](1)上代から例があり、
中古以降もごく一般に用いられた。同様な意味を表わすものに「たがふ」から変化したものともいわれる「ちがふ」があり中古から用いられるが、「たがふ」より例は少ない。
(2)「たがふ」は、
文章語としては、
近世に入っても例が多いが、近世初期の口語資料である「きのふはけふの
物語」(
一六一四‐二四頃)では、「ちがふ」は見られるが「たがふ」はなく、今日では、
口頭語としては、ほとんど用いられなくなった。
たが・える たがへる【違】
〘他ア下一(ハ下一)〙 たが・ふ 〘他ハ下二〙 たがうようにする。たがわせる。
① 二つ以上の物がかみ合わないようにする。会わないようにやりすごす。よける。避ける。
※宇治拾遺(1221頃)一〇「あるかぎり、東の陣に、かく出でゆくを見んとて、つどひあつまりたる程に、たがへて、西の陣より〈略〉出でぬれば、人々も見ずなりぬ」
② くいちがわせる。はずす。ちがえる。
※蘇悉地羯羅経略疏天暦五年点(951)五「機を差(タカフル)過有ること无し」
※
太平記(14C後)九「其矢思ふ矢坪を不
レ違
(タカヘ)〈略〉
眉間の真甲に当て」
③ そむいて裏切る。約束や言いつけを破る。
反故にする。
※大和(947‐957頃)八九「これならぬことをもおほくたがふればうらみむ方もなきぞわびしき」
④ 正常でない状態にする。まちがえる。
※
蜻蛉(974頃)中「所たがへてけり。いふかひなきことを」
※
愚管抄(1220)五「御
気色をばたがへまゐらせ候まじきに候」
⑤ 方違(かたたが)えをする。
※蜻蛉(974頃)中「忌もたかへがてら、しばし
ほかにと思ひて」
たがえ たがへ【違】
〘名〙
① (動詞「たがえる(違)」の
連用形の
名詞化) たがえること。ちがい。
※能因本枕(10C終)一〇〇「ぬひたかへの人のげになほさめ」
※
平中(965頃)三八「方ふたがりたれば、みな人々つづきて、たかへに去ぬ」
※今西氏家舶縄墨私記(1813)坤「艣 〈略〉たかゑしめたる所にかけんあり」
たがい たがひ【違】
〘名〙 (動詞「たがう(違)」の連用形の名詞化)
① たがうこと。ちがい。相違。差異。
※源氏(1001‐14頃)宿木「かの本意の聖心はさすがにたがひやしにけむ」
※談義本・風流志道軒伝(1763)四「その
(タガヒ)明白ならん」
ちが・ゆ【違】
〘他ヤ下二〙 (ハ行下二段活用の「ちがふ」から転じて、室町時代ごろから用いられた語。多くの場合、終止形は「ちがゆる」の形をとる) =
ちがえる(違)※日葡辞書(1603‐04)「ヤクソクヲ chigayuru(チガユル)」
たが・ゆ【違】
〘他ヤ下二〙 (ハ行下二段動詞「たがふ」から転じて中世ごろから用いられた語。多くの場合、終止形は「たがゆる」の形をとる) =
たがえる(違)※宇治拾遺(1221頃)九「もし一人しては、書たがゆる事もあり」
い‐・す ヰ‥【違】
〘自サ変〙 一致しなくなる。相違する。違う。
※海道記(1223頃)草津より矢矧「心に違する気色は友を背に似たれども」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報