法に違反すること。適法に対する概念。違法性(ある行為が違法であること、いいかえれば法秩序に違反すること)と関連して論ぜられることが多い。刑事責任はもとより、民法上の不法行為責任においても、ある行為が違法であると考えられるとき、初めて法的責任を問うことができる。
日本のように実定法主義(法実証主義)をたてまえとする国では、何が違法かはおおむね法規により示されるが、このような法規に形式的に違反することを形式的違法という。ただ、数多くの法規が錯綜(さくそう)している今日の国家においては、諸法規全体を総合的に勘案したうえで、形式的違法とは法秩序または法規範に違反すること、とする見解もある。いずれにせよ、ある行為につき形式的に特定の法律に違反するからといって、法規範全体または公序良俗(公の秩序および善良な風俗)の観点からは、ただちにこれが実質的に違法(実質的違法という)であるとはいえない。たとえば、窃盗の被害者が犯人から盗まれた物を取り返す場合、形式的には刑法第235条の窃盗罪にあたるが、自力救済(または自救行為)として処罰されない場合もある(ただし、自力救済を根拠づける法規は存在しない)。
実質的違法とは何かについては、それが公序良俗違反、文化規範違反、社会倫理違反であるとするなどさまざまな考え方がある。とりわけ、刑事責任を問うためには、ある行為が個別の刑罰法規(構成要件)に該当するばかりでなく、実質的違法の存否が問題となる。その際、この実質的違法を何に求めるかについては、今日、行為無価値論と結果無価値論との対立がある。行為無価値とは行為が社会倫理または社会相当性を逸脱すること、結果無価値とは結果が法益(法により保護された生活利益)に対する侵害性を有することである。ただ、行為無価値論においては、行為無価値とともに結果無価値も不可欠であるとする見解(二元的行為無価値論とよばれる)が支配的であり、結果無価値論においても、行為に着目して実行行為の概念を導入する見解も有力である。また、この実質的違法に関連して、刑事責任を基礎づける違法とは、可罰的違法、すなわち、刑罰に値し、かつこれに適する違法でなければならないとされる(可罰的違法論)。ただし、実質的違法を何に求めるにせよ、通説・判例によれば、構成要件は違法類型(違法を類型化したもの)であるから、構成要件に該当する行為は違法性が推定され、この推定を破る特別の事情(すなわち違法阻却(そきゃく)事由)が存在しない限り、違法なものとみなされる。
なお、民法上、違法(違法性)は債務不履行責任や不法行為責任における要件の一つとして問題とされ、とくに後者の場合については、条文上は権利の侵害という形で示される(民法709条)。
[名和鐵郎]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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