遠藤利克(読み)えんどうとしかつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「遠藤利克」の意味・わかりやすい解説

遠藤利克
えんどうとしかつ
(1950― )

美術家岐阜県高山市生まれ。1972年(昭和47)名古屋造形芸術短期大学彫刻科卒業。飛騨高山宮大工の家に生まれ、少年時代に地元の仏師(ぶっし)に弟子入りし一刀彫りの技術を身につける。しかし、その伝統的な手わざに縛られて自己表現の可能性が狭まることをおそれて、70年ごろより、近・現代彫刻の立体作品の純粋な表現方法に移行した。

 70年代の日本現代彫刻は、モニュメンタルなイメージ表現を拒否して、彫刻素材のもつ物質感を重視し、最小限形態を選ぶ傾向が強くなった。遠藤は、そういった時代の移り変わりを横目でみながら、原初的な物質がかもし出すイメージの虚構性や幻想性に目を向けた。地球が誕生し、地・水・火・風が生まれ、原生動物がうごめき始め、そして人類が発生するという、生命始原に想いをはせた。人間の想像力が育まれ、生や性、そして死の観念が生まれ出る共同体の命運を、遠藤は自らの美術思考の元に据えた。

 このような考え方は、83年の個展「無題」(ギャラリー葉、東京)の、伐採された円柱の木を22本立ち並べ、その上部の内側を椀のように彫りこみ、そこにタールを塗りこんで漏れないようにして水をたたえた作品で象徴的に表現された。80年代なかばから、埼玉県狭山市内の自宅アトリエ近くの山林などで「無題」「寓話」「泉」シリーズを発表した。円形に溝を掘り、そこに火を放って燃える炎だけを作品としたアースワークや、円柱の樹木に蛇や注連縄(しめなわ)の形を彫りだし、その後、そこに火をつけて表面を炭化させる行為、さらに、木船をつくり内側に水を張って湖に浮遊させるイベントを続けた。その方法論は、ベネチア・ビエンナーレ(1990)日本館に出品した作品『エピタフ』『泉』の、表面を真っ黒に炭化させた巨大な円柱木材のインスタレーションで具体化された。そのほか水を使った作品には『欲動-水Ⅰ』(1996)があるが、これは台所のシンクに水を流し、こぼれ落ちるままにしたもの。また第1回横浜トリエンナーレ(2001)では『振動-水Ⅴ』を出品。会場の一部を壁で囲った部屋にコンクリートのプールを設置し、上部のパイプから滝のように水を流すインスタレーションとして発表した。いずれも物質と精神との関係を問い、大地・大気・火・水という原初のイメージを通して、人間の根源的なエロス(生の衝動)を喚起する作品である。

 個展による発表は、75年「水をよむ」(サトウ画廊、東京)以来ほぼ毎年開催し、海外では89年(平成1)「遠藤利克」展(ノルディック・アート・センター、ヘルシンキ)、91年「大地:大気:火:水――遠藤利克の彫刻」(モスティン・ギャラリー、イギリス)と個展を開催。国際展への参加は、87年ドクメンタ8(ドイツ、カッセル)、90年「プライマル・スピリット――今日の造形精神」展(ロサンゼルス・カウンティ美術館)、94年サン・パウロ・ビエンナーレ、2000年光州ビエンナーレほか多数。

[高島直之]

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百科事典マイペディア 「遠藤利克」の意味・わかりやすい解説

遠藤利克【えんどうとしかつ】

美術家。岐阜県生れ。名古屋造形芸術短大卒。1987年ドクメンタ8,1990年ベネチア・ビエンナーレに出品。1991年東高現代美術館で個展。焼成した木,水,土といった素材を用い,物質の根源的な意味を問う作品を制作している。

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