遺伝性腎炎(読み)いでんせいじんえん(その他表記)Hereditary Nephritis

家庭医学館 「遺伝性腎炎」の解説

いでんせいじんえん【遺伝性腎炎 Hereditary Nephritis】

[どんな病気か]
 いわゆるアルポート症候群(しょうこうぐん)と呼ばれているもので、遺伝性進行性腎炎に神経性(感音性)難聴(なんちょう)などをともなうものをいいます。
 糸球体(しきゅうたい)の血管壁基底膜(きていまく))の異常が原因となっておこります。最初のうちは血尿(けつにょう)がみられるだけですが、しだいにたんぱく尿も出るようになり、長い期間を経て悪化し、青年期から中年期の間に、腎不全(じんふぜん)(「腎不全」)に進んでしまいます。
 最近、このアルポート症候群の原因が、腎臓の基底膜のおもな構成成分であるⅣ型コラーゲン遺伝子異常によることが明らかになりました。
 遺伝形式はX染色体優性型(エックスせんしょくたいゆうせいがた)と常染色体劣性型(じょうせんしょくたいれっせいがた)に分けられますが、アルポート症候群の約85%はX染色体優性型と考えられています。
[症状]
 10歳までに、血尿あるいは血尿とたんぱく尿で気づかれることが多いようです。たんぱく尿は徐々に増加して、進行するとネフローゼ症候群(「特発性ネフローゼ症候群」)を示すようになることがあります。
 一般的には、男性は予後が悪く、腎不全になりやすいものですが、女性は予後がよいといわれています。
 腎臓以外の症状では、感音性難聴(かんおんせいなんちょう)が約40%の人に、白内障(はくないしょう)や円錐角膜(えんすいかくまく)などの目の症状が約15%の男性にみられます。
[検査と診断]
 診断を確実にするためには、腎臓の組織学検査が必要です。
 腎組織の特徴としては、光学顕微鏡では目立ったものはありませんが、小児では、未熟糸球体の数が多いことがあげられます。
 年をとるとともに糸球体に変化が現われてきます。
 糸球体基底膜の電子顕微鏡を用いた観察では、この病気の診断にきわめて重要な所見がみられます。それは、基底膜の肥厚と菲薄化(ひはくか)(薄くなること)、網目状変化などです。
 家族歴を調べて、家系のなかに末期腎不全の人がいたり、母親、きょうだいにも同じような腎臓の変化があれば、容易に診断ができます。
 最近では、Ⅳ型コラーゲンの単クローン抗体こうたい)が開発され、診断にきわめて有効なことがわかりました。
 腎生検で得た組織を、この抗体を用いて免疫染色すると、遺伝性腎炎では、糸球体基底膜が染色されず、Ⅳ型コラーゲンの異常から、診断が可能となりました。
[治療]
 特別な治療法はなく、従来より腎炎の治療に使用されているステロイド副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬)、免疫抑制薬(めんえきよくせいやく)、抗凝固薬(こうぎょうこやく)も効果がありません。腎不全におちいった場合は、人工透析(じんこうとうせき)や腎移植が勧められます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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