家庭医学館 「野球肩」の解説
やきゅうかた【野球肩 Baseball Shoulder】
野球の投球動作で生じる肩の痛みです。
関節包(かんせつほう)や肩関節に付着する腱(けん)や筋(きん)の損傷によるもので、損傷の部位によって、肩の前方、または後方が痛みます。
この野球肩といわれる状態には、つぎのような損傷が含まれています。
■インピンジメント症候群(しょうこうぐん)
肩を使うたびに、上腕骨頭(じょうわんこっとう)をおおう軟部組織(腱板(けんばん)の筋肉・腱、肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)、二頭筋腱(にとうきんけん))が挟まれ、こすられ、炎症がおこる結果、肩が痛みます。
●症状
患者さんの上肢(じょうし)(腕)を前方にまっすぐ伸ばしてもらい、医師が腕を上方へ押し上げると強い痛みが生じます。これをインピンジメント徴候(ちょうこう)といい、この障害の特徴です。
●原因となる野球以外のスポーツ
肩を強く挙上させる動作を必要とするボート、水泳、重量挙げ、バスケットボール、ラケットを使用するスポーツなどが原因となります。
●治療
肩の安静がたいせつで、少なくとも3日間は肩を完全休養させます。消炎鎮痛薬の内服のほか、湿布(しっぷ)・軟膏(なんこう)のかたちで使用することもあります。肩のアイスマッサージやアイシング(冷却)も行ないます。
安静にした後、肩が痛まなくなったら、手にアイロンなどを持って肩を動かす運動療法を行ないます。
これらの治療で治らないときは、関節鏡を使った手術が必要になることがあります。
■回旋筋腱板損傷(かいせんきんけんばんそんしょう)
棘上筋腱(きょくじょうきんけん)という腱板の損傷で、炎症だけのものから、一部分が切れる不完全断裂や全部が切れる完全断裂をおこしているものまで、程度はいろいろです。投球の際の肩関節の牽引(けんいん)やねじれによっておこります。
●原因となる野球以外のスポーツ
ラグビーのタックルの際の衝突、レスリングや柔道の際の転倒、重量挙げの際の肩関節の牽引やねじれでおこります。
●症状
肩が腫れて痛むほか、腕をまっすぐ上に上げたり、腕のはばたき運動ができなくなります。
●治療
完全断裂の場合は、手術をして腱をつなぎます。
完全断裂以外の損傷は、2週間、上肢を包帯で固定して安静を保ち、その後、肩を暖める温熱療法や、筋力強化運動を徐々に開始します。
■ルースショルダー(動揺性肩関節症(どうようせいかたかんせつしょう)、動揺肩(どうようかた))
肩関節のつくりが不安定で、ふつうの範囲以上に動いてしまう状態です。たいていは、先天的なものです。
こういう人が肩を使いすぎると症状が現われてきます。
●症状
ふだんは肩の痛みを感じませんが、肩を使ったときに痛みます。肩の不安定感・倦怠感(けんたいかん)・脱力感をともなうこともあります。
投球のフォロースルー(投球の最後に腕を振り切る動作)の際に、肩が抜けるように感じることもあります。
バレーボールのスパイクやサーブ、テニスのサーブ、槍投(やりな)げなどでも肩の痛みがおこります。
●治療
筋力トレーニングに積極的に取り組むことがたいせつです。筋力を強化しても、ルースショルダーが治るわけではありませんが、痛みを軽くする効果があります。
アイスマッサージやアイシング(冷却)も痛みの軽減に効果があります。
野球の選手で、投球フォームが正しくない場合は、正しいフォームに矯正(きょうせい)することが必要です。
■上腕骨骨端線離開(じょうわんこつこったんせんりかい)(リトルリーグショルダー)
上腕骨の骨頭(こっとう)にある成長軟骨が骨頭から分離している状態です。
少年野球の選手、とくに投手に使いすぎ症候群(しょうこうぐん)(「使いすぎ症候群」)の1つとしてよくおこる損傷で、投球時に肩が痛みます。
●治療
2~3か月間投球を禁止し、その間、2~4週間隔でX線検査を行ないます。
アイスマッサージやアイシング(氷却)、ストレッチングや筋力トレーニングを実施しますが、予後はよく、ほとんどが完全に治ります。
投球フォームの改善も必要です。
■肩甲上神経損傷(けんこうじょうしんけいそんしょう)
棘下筋(きょくかきん)を支配している肩甲上神経が、投球のフォロースルーのような動作のときに引っ張られたり、圧迫されたりして損傷をおこしたものです。
野球、バレーボールのようなオーバースロー(上腕を肩より上に上げて投げる動作)をくり返すスポーツでおこります。
●症状
肩が痛み、痛みが肩の後ろ外側に放散します。
●治療
肩の安静を保ちます。副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンの注入や、神経の圧迫を取り除く手術が行なわれることもあります。