金利平価説(読み)きんりへいかせつ(その他表記)Interest parity theory

日本大百科全書(ニッポニカ) 「金利平価説」の意味・わかりやすい解説

金利平価説
きんりへいかせつ
Interest parity theory

為替(かわせ)相場決定理論の一つで、直物相場と先物相場という二つの相場がどのような関係をもって決定されるかを説明したもの。ただし、為替相場決定理論の代表的理論である「購買力平価説」や「アセット・アプローチ理論」では、直物相場を念頭においた相場がどのような要因メカニズムによって決定されるかを説いており、それとは性格が異なることに注意を要する。あえて例えるならば、2本の電車の線路軌道(とくに注視しているのは、その1本の直物相場)がどの方向に向かっているかを説いている代表的理論に対して、金利平価説は2本の線路の幅がどのように決定されるかを教えているといえる。

 あらゆるビジネスの世界での収益機会は、理論的に整理すれば、二つしかありえない。一つは、自らの価格変動予想に基づいて、リスクを負って、価格変動益を追求する投機speculationである。もう一つは、経済の基本原理と現実の歪(ゆが)みを活用することによって、まったくリスクを負うことなく、きわめて小幅の鞘(さや)をとるという裁定arbitrageである。一瞬の歪みを狙(ねら)って、瞬時に大量の取引をなしうる金融の世界においては、裁定取引は巨額のものとなっており、その代表的形態金利裁定取引にほかならない。その結果、結論からいえば、国際金融市場では内外金利差≒直先スプレッド(直物相場と先物相場の乖離(かいり)率)という関係が成立する、という考え方が金利平価説である。

 いま、リスクを冒して投機をせず、安全確実に少しでも多くの運用収益を確保したいと考える投資家が、100億円を内外で1年間運用する場合を考えてみよう。円金利が5%(年率)であったとすれば、国内での運用では1年後に105億円の元利を確保できる。国際化された社会では海外での運用も可能であり、いまドル金利が10%、直物相場が100円/ドルであるとすれば、100億円をドルに転換し、ドル預金等で運用すれば、1年後には1.1億ドルの元利が得られる。ただし、外貨での運用はこれを1年後に円に転換する際の直物相場が不明であるため、リスクが伴い、投機に挑戦するということになる。しかし、もう一つの選択肢として、ドルに転換し、ドルで運用を開始すると同時に1年物先物相場で1.1億ドルのドル売り予約を締結しておくことができる。実務的には、直物ドル買い、先物ドル売りをペアで取引する外国為替スワップ取引を締結するということである。

 とすれば、国内において円で運用した場合はもちろん、海外においてドルで運用した場合も当初から確定利回りのリスクのない運用となる。にもかかわらず、1年物の先物相場が95.45円/ドル(105億円÷1.1ドル)よりドル高であったら、どのようなことがおこるであろうか。当然、あらゆる日本の投資家がすべての自己資金、さらには借入金まで、安全確実に余計に利回りの得られるドルでの運用に投入することになろう。その結果、直物相場はドル高、先物相場はドル安に調整され、仮に直物相場が100円/ドルのままだとすれば、1年物の先物相場は95.45円/ドルになり、円での運用もドルでの運用も105億円と、同額になるはずである。

 それを、式で表せば、おおむね
 内外金利差≒直先スプレッド
厳密にいえば、次のような関係式が成立する。

 日本の金利-外国の金利×先物相場/直物相場=(先物相場-直物相場)/直物相場
その意味は、次のように理解できる。国際化された現代社会では、内外二つの資産運用(資金調達も同様)の選択肢があるが、先物予約付またはスワップ付で外貨運用することによって、双方とも(価格変動)リスクがないのならば、その収益はかならず一致するはずである。とすれば、たとえばドルの金利が円の金利よりも高く金利収益が多い分、かならず為替相場は今日の直物相場より満期日の先物相場のほうがドル安になり、その間のドル運用によって、為替差損が生じることになるという原理が成り立つということである。

 なお、直物相場に比べ先物相場がドル安の場合をドル・ディスカウント、逆の場合をドル・プレミアムとよんでいる。つまり、外国為替市場では、直物相場と先物相場は無関係に動いているわけではなく、金利裁定取引によって調整がなされ、内外金利差の幅をもって平行に動いていくというメカニズムが作用しているということである。

[中條誠一]

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