改訂新版 世界大百科事典 「鉄道車両工業」の意味・わかりやすい解説
鉄道車両工業 (てつどうしゃりょうこうぎょう)
鉄道輸送に用いられる車両を生産する工業。鉄道車両には,電気機関車,ディーゼル機関車,客車,ディーゼル動車,電車,貨車がある。新しいものには,モノレールなど新交通システム用の車両がある。日本では車両生産数全体の9割程度が現在は電車である。鉄道創業時はすべてイギリスから車両を輸入していたが,国産化は,客車,貨車が1875年(明治8),蒸気機関車が93年,電気機関車が1919年に行われた。とくに1906年の鉄道国有化に伴い国産車使用方針が打ち出されたことが大きい。したがって鉄道車両工業の歴史は,国鉄(現JR)の歴史ともいえるほど国鉄向けに依存してきた。また典型的な受注産業でもある。需要先構成別には,JR向け50~60%,私鉄,地下鉄など民需向け25~35%,輸出向け5~10%である。JR輸送量の伸び悩みによりJRの設備投資すなわちJR向け車両生産は停滞している。民需向けはほぼ横ばい,したがって業界は活路をアメリカ,中南米,アジアなど輸出市場に求めている。業界の生産額は1698億円で,2312両(うち貨車1259両),需要先にみるとJRが890億円,1181両,民鉄などJR以外が627億円,998両で,輸出は182億円,133両となっている(1995年度)。鉄道車両工業の企業には兼業メーカーが多い。集中度も高く,川崎重工業,日立製作所,東急車輛製造,近畿車輛,日本車輛製造の上位5社で70~80%の生産を行っている。
今後は,(1)世界的に鉄道輸送需要の伸びが見込めないこと,(2)JRの財政難もあって,新幹線のような大きなプロジェクトが望めないこと,(3)輸出市場も地域別の需要の振れが大きく,また中進国の追上げ,国産化志向もあって,競争激化が予想されること,など厳しい展望である。
執筆者:徳田 賢二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報