地下に埋蔵する人類に有用な鉱物の総称。地下資源ともいうが、地下資源は、厳密には地下水、地熱などの資源も含む。鉱物資源は広義には石油、石炭、天然ガスなどの資源も包含するが、狭義には天然に産する金属・非金属資源をいう。鉱物資源は単にそれが存在するのみでは価値をもたないものであり、それが技術的ならびに経済的にみて社会に利用される場合に価値が生じ、資源となる。したがって、鉱物資源の有用性や量的大きさの度合いは、その時代の科学技術のレベルによるものといえる。
一方、鉱物資源の有限性については、世界的に関心が高まり、さまざまな議論が行われてきたが(ローマ・クラブの『成長の限界』など)、資源の消費量が過去の成長トレンド(傾向)で幾何級数的に増大すると仮定することは、地球環境の制約条件からみて人類の将来にゆゆしい問題を引き起こすものと考えられる。世界人口と資源消費量の増加をどの程度に抑制し、調和させていくかは、今後の人類の知恵にまつとして、当面考えられる資源問題の中心は、国家レベルでの鉱物資源の安定確保をいかに図っていくかに要約される。
[須崎祐吉]
有用鉱物の集合体である鉱床の生成は、地質時代とその地質環境によって規定される。すなわち、世界の鉱物資源は、特定の地質時代とその地質環境によって特定の鉱床が、これらの条件を満足する特定の地域にのみ濃集・生成されるものである。
世界の鉱物資源の賦存状況は、(1)ほとんどの鉱種が、埋蔵量の多い上位5か国の合計で世界埋蔵量の50%以上を占めている、(2)一部鉱種においては、埋蔵量が発展途上国(銅、錫(すず)、ニッケルなど)、共産圏諸国(アンチモン、タングステン、マグネシウムなど)に集中している、(3)自由世界の先進国のうち、多くの鉱種で大量の鉱物資源を賦存する国は、アメリカ(25鉱種)、カナダ(21鉱種)、オーストラリア(15鉱種)の3か国である、(4)日本には、若干の鉱種を除き、あまりみるべきものはない、などのように偏在することが明らかである。
[須崎祐吉]
生産状況についても、すべての鉱種で世界生産量の50%以上が上位5か国に集中している。一部の鉱種で鉱石生産が発展途上国(錫、コバルトなど)と共産圏諸国(白金、石綿など)に集中している。旧ソ連は多くの鉱種で上位5か国にあった。自由世界の先進国で上位5か国にあって鉱種の多いのはアメリカ、ついでカナダ、オーストラリア、南アフリカ共和国となっている。わが国で上位5か国にあるのは、ビスマス、セレンなどの6鉱種で、うちスポンジチタンを除く他のものはベースメタルの製錬過程で副産されるものである。
消費(一部地金生産)の状況については、埋蔵量および鉱石生産状況とまったく異なり、自由世界の先進国に著しく集中し、大半の鉱種でこれら諸国が世界の資源消費量の50%以上を占めている。鉱種数の多いのは日本とアメリカで、肩を並べている。ついでドイツ、フランス、イギリスの順となっている。
[須崎祐吉]
自由世界の先進国においては、資源消費量と資源生産量との間には大きなギャップがある。これらのギャップを埋める手段として、先進国では主として海外から鉱石や地金を輸入し、その結果として主要鉱種の世界の輸入量の上位5か国はすべて自由世界の主要な先進国が占めるという状況にある。したがって、主要鉱種における主要先進国の鉱物資源消費に占める輸入の割合は非常に大きく、各国ともこれら鉱種の安定供給確保に苦心している。
また、資源の安定供給確保を考える場合に問題となるのは、資源保有国と資源消費国(先進国)との間に少数の国際巨大資源資本が介在していることである。例を銅にとると、1963年にアナコンダをはじめとする世界大手産銅11社で、世界の鉱石生産量の65%を占めていたものが、79年には31%と比率が減少してはいるものの、相変わらずかなりの比率で寡占的支配体制が維持されている。このような巨大資源資本の介在はすべての鉱種にみられるが、銅以外ではアルミニウム、ニッケルなどの鉱種において、その傾向が顕著である。
[須崎祐吉]
わが国の鉱物資源の国内生産をみると、銅、鉛、亜鉛、マンガン、タングステンなどの鉱種については一定の生産がみられるが、国内鉱比率では鉛、亜鉛、タングステンなどを除き、数%程度ときわめて低い生産量である。とくに、ニッケル、コバルト、ボーキサイトなどは国内にまったく産出しないため、全量輸入に依存している。
これら資源の輸入は、わが国の鉱物資源産業が海外資源の開発に参加した形での開発輸入や融資買鉱、あるいは単純買鉱によって行われており、このうち、単純買鉱の比重が高いのが特徴である。このこともわが国の資源供給確保の不安要因の一つとなっている。
一方、わが国の鉱物資源産業は、世界の主要資源産業と比較して経営基盤が弱体である。このため、海外投資のリスクの増大、収益性の低下などの理由から海外での資源開発部門の活動が低調になってきており、むしろ活動の中心を製錬加工部門などの下流部門に移行する傾向がある。したがって、わが国の資源輸入の特徴は、他の先進国と比較して、地金輸入より鉱石輸入の比重が高くなっていることである。
[須崎祐吉]
現在、世界のいかなる国も国内需要をすべて国内の鉱物資源でまかなうことは不可能である。とくにヨーロッパの主要国や日本は、資源の対外依存度がきわめて大きい。また、最近、資源大国であるアメリカにおいても、一部鉱石の品位低下や環境規制の強化などにより、国内資源による供給比率が低下し、対外依存度を高めているが、これは世界の経済安全保障の見地からも問題となっている。
資源の安定確保は、健全な経済活動を維持するうえで必要であるため、これら欧米諸国は資源政策を重視し、資源供給の安定確保に多大の努力を払ってきている。したがって、これら諸国は、資源開発が発展途上国の社会経済開発の中核となるとの認識から、資源政策を対外政策の柱の一つとして位置づけ、経済協力や技術協力を強化してきている。
しかし、最近の世界の資源情勢は、資源ナショナリズムの高揚、巨大石油資本による鉱物資源開発企業の買収や提携、資源貿易の拡大などにより、その様相を変えつつあり、新国際経済秩序形成への一環として、国際協調、相互依存的な動きが顕著になっている。
[須崎祐吉]
厳しい資源環境において、日本が資源の安定供給を確保し、経済の安全保障を確立するうえで阻害要因となるであろう、いわゆる「脅威」の形式がどのようなものであるかを考えてみよう。まず、短期的、突発的な資源供給の混乱の可能性が考えられる。その発生の原因として、第一に、資源国、とくに発展途上資源国における局地紛争などの政治的ならびに社会的混乱が考えられる。シャバ(カタンガ)紛争によるザイール(現コンゴ民主共和国)の生産への影響、アンゴラ紛争に伴うザイール、ザンビアの鉱産物輸送問題などにその実例がある。また、生産国における大規模な労働争議も考えられる。第二の要因としては、資源生産国ないし生産国グループの政治・経済的意図による供給制限などの可能性があげられる(1973年のOPEC(オペック)による石油戦略の発動など)。次に長期的、構造的な脅威が考えられる。近年、資源開発は新しい資源を求めて奥地化、深部化する傾向があり、加えて資源開発には開発までに長い期間と莫大(ばくだい)な資金が必要となる。このため、新規鉱山開発は世界的にみると停滞しており、このような状況が続く限り、資源の需給逼迫(ひっぱく)化の傾向は長期的には避けられないといえる。
[須崎祐吉]
経済安全保障上の脅威を未然に防止するとともに、万一かかる非常事態が発生した場合に、わが国をはじめ主要国の経済への影響を最小限度に抑制するためにさまざまな対策が考えられる。
これらの対策で近年とくに注目されてきたのは、備蓄制度の確立・拡充で、現在、アメリカ、フランスでは、戦略上あるいは経済安全保障の観点から備蓄制度の強化拡充が図られており、ドイツ、イギリスにおいても検討が進められている。また、長期的にも必要であるものに、資源のリサイクリング(再生利用)がある。この場合重要なことは、資源リサイクリングを単に原料の節約と考えずに、環境保全の立場を考慮した総合的な観点からこれを理解し推進することが必要である。
次に長期的な需給逼迫化傾向への対策であるが、資源供給量の増大を図るためには、わが国としても、従来型の資源開発のみならず、深海底鉱物資源、とくにマンガン・ノジュール(団塊)や重金属泥などの新資源の開発も積極的に推進することが必要である。
[須崎祐吉]
21世紀の日本のエネルギーおよび鉱物資源の需要量を推定すれば、比較的低い経済成長シナリオでも、現状よりも多い資源の確保が必要となることが明らかになっている(科学技術庁資源調査会、1981)。このためには、わが国の経済社会の糧(かて)ともいえるエネルギーおよび鉱物資源の需給の諸問題に対する対策を長期的視点にたって展開することが必要である。
今後、わが国として積極的に推進すべき方策としては、(1)供給国の分散、供給ルートの多様化、(2)資源利用効率の向上、廃棄物の再資源化の徹底、(3)省資源・省エネルギー化の推進、(4)備蓄の推進、(5)望ましい資源の選択とその確保を行うための資源アセスメントの推進、(6)環境保全と一体となった開発の推進、などの諸点に考慮を払う必要がある。
[須崎祐吉]
『科学技術庁資源調査会「特殊元素の開発および利用に関する基礎資料」(『科学技術庁資源調査所資料』第38号所収・1976)』▽『科学技術庁資源調査会「将来の資源問題に関する総合調査報告――21世紀を目指した資源政策」(『科学技術庁資源調査会報告』第86号所収・1981)』▽『大町北一郎著「鉱物資源の今日と明日」(『日本の科学と技術』所収・1977・日本科学技術振興財団科学技術館)』▽『須崎祐吉著「鉱物資源」(『日本資源読本 第5章』所収・1973・東洋経済新報社)』▽『日本経済教育センター編集専門委員会編『世界の鉱物資源事情』(『図説・経済教育資料』所収・1982・日本経済教育センター)』