日本大百科全書(ニッポニカ) 「銭荒」の意味・わかりやすい解説
銭荒
せんこう
中国で鋳貨の供給不足の現象をいう。とくに北宋(ほくそう)、南宋では銭荒が政治議論にもなった。中国では古来、銅銭が主要通貨(制銭)であり、政府は十分な供給を期するため、鋳造を独占して統制した。唐のなかばに国内、海外商業がおこったころ、天宝(てんぽう)年間(742~755)で歳額23万貫弱を鋳造したが、宋代には広東(カントン)、湖南、江西の銅鉱を開いて良質の銅銭を鋳造し、歳額300万~500万貫を供給し、史上最高を記録した。しかし経済の発達で小額貨幣への需要が急増し、加えて軍隊の補給や拡大した東アジアの国際貿易で、信用の高い宋銭への需要が伸び、当時の鋳造技術では供給が追い付かず、慢性の銭荒に陥り、代替として普及し始めた銀や紙幣の流行は、銅銭の鋳潰(つぶ)しや密輸を促す結果となった。
[斯波義信]