中国では銅を素材として貨幣を鋳造する歴史は古く,銅貝や刀貨(銭),布銭(貨)にまでさかのぼるが,一般に銅銭というときは正方形の穴(方孔)を中央部にもつ銅製の円銭を指す。古代帝国秦・漢より,元代を除き,清朝末期に至るまで基本貨幣として用いられた。戦国時代には貨幣経済が盛んとなり,とくに都市において商取引が貨幣で決済されるようになると,旧来の布銭や刀貨は角ばって扱いがたく使用に不便であったためか,しだいに円形化したり単純化する傾向が生まれた。この趨勢の中で現在の河北省北部を中心とした領域をもった燕国では旧来の刀貨の柄環部を独立させて,その表面に刃部に刻まれていた明字と柄部の紋を中央の方孔のそれぞれ右左に刻む明字円銭(明刀銭)が発行された。この明刀銭の形式はまもなく南隣の斉国に受容され,化銭(あいかせん)が作られる。やがてこの方孔円銭の様式は西方の秦にも採用され,半両銭が作られる。半両銭は秦国の貨幣であったところから最初の統一貨幣の名誉を担うことになるが,方孔円銭という点で後世の銅銭の祖型とはなったものの,周縁部に外郭がなく,文字や形式も不整合なうえ,銭文とその重量が一致していなかった。漢の武帝は財政上の目的のほか,これらの不備を改める目的もあって五銖銭を発行した。五銖銭は重量や様式において貨幣としての条件を充足し,経済の実情にも適していたので,これ以後,銅銭のモデルとなった。なお,唐初の621年(武徳4)に開元通宝が発行されるまでは銭面には主として五銖の文字が刻まれたが,それ以後は通宝,重宝などの名を用い,元号などを冠するのがならわしとなった。
戦国から秦・漢時代には銅銭は黄金(金餅)と併用されていたが,その後,黄金が流通過程からひいたので,銅銭がもっぱら貨幣の主役をつとめた。しかし宋以後になると紙幣や銀と併用されるようになり,基本貨幣の地位は保ちつつも,その役割は軽くなっていった。清末の1900年(光緒26),銅元(洋式の銅貨)の発行によって銅銭は歴史的使命を終えた。日本にも王莽(おうもう)の貨泉をはじめ,開元通宝,宋銭,永楽通宝など多くの銅銭が輸入されたが,なかでも開元通宝は和同開珎のモデルとなったことはよく知られている。なお日本の銅銭については〈銭(ぜに)〉の項を参照されたい。
執筆者:稲葉 一郎
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中国では西周末以来,刀銭,布銭と呼ばれる青銅の鋳貨が流通していたが,秦の始皇帝の統一とともに幣制も統一されて,方孔円形の半両銭がつくられた。漢の武帝のとき五銖銭(ごしゅせん)が発行されて銅銭の形式が定まった。銅銭が主貨幣として最も流通したのは,貨幣経済が発達し,広東などの銅鉱が大量に産出した北宋時代であり,それは精度も品位も高く,東アジア,南アジア,アフリカなどにも流出した。
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…日本では貨幣の総称として銭という用語が使われるが,金銀貨との比較のうえで銭貨といえば,主として銅銭を意味する。日本最初の官銭としての銭貨は708年(和銅1)鋳造の和同開珎(わどうかいちん)で,以後,万年通宝,神功開宝,隆平永宝,富寿神宝,承和昌宝,長年大宝,饒益神宝,貞観永宝,寛平大宝,延喜通宝,乾元大宝のいわゆる皇朝十二銭が鋳造・発行された。…
…これはいうまでもなく,経済の発展,なかんずく商業の飛躍的な発展によるものである。その点は銅銭の鋳造額にも示される。唐代では752年(天宝11)の32万7000貫が最高であったが,宋初ですでに約80万貫(995),王安石の新法実施中の1080年(元豊3)には506万貫にのぼり,北宋160年間の鋳銭総額は実に2億貫に達したと推定されている。…
…【葉賀 七三男】
【日本における生産,流通の歴史】
産銅の記録上の初見は698年(文武2)で,因幡国,ついで周防国から銅鉱を献じたといい,708年武蔵国より和銅(にぎあかがね)すなわち自然銅を献じている。朝廷では慶雲の年号を和銅と改め,近江国で銅銭の和同開珎を鋳造させ,ついで河内,山城などでも同銭をつくらせた。しかし銅の採掘はおそらく記録以前に始まり,古墳時代にまでもさかのぼるであろう。…
…当時この地域には河川,湖沼や藪沢などの低湿地が多く漁労や狩猟が盛んであったところから獲物の処分に用いる小刀類が貴重視され,交換の媒介に用いられるようになったのであろうと考えられている。なお,いわゆる銅銭,方孔円銭が,刀貨の柄環部の独立して生まれたものであることは記憶しておいてよい。明刀銭【稲葉 一郎】。…
…現在,両替で最も重要なものは貿易決済に伴う外国通貨との両替である。【山口 徹】
【中国】
中国では漢から清まで鋳貨は銅銭が主体で制銭と称し,補助貨幣として金,砂金,銀,水銀,絹が用いられ,宋からは紙幣や証券が行われ,しかも都市間商業は古くから発達していたから,両替業の起源も古いに相違ない。しかし明確な両替制度が整うのは商業革命期の唐・宋時代である。…
※「銅銭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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