雨水が建物の中に浸入するのを防ぐこと,またはその方法。〈雨仕舞が良い〉〈雨仕舞が悪い〉などという。雨仕舞が悪いと雨漏りに悩まされるばかりでなく,建物の各部材のカビ,さびの発生や腐朽の原因となり,建物を汚し,寿命を縮めることになる。雨仕舞の基本は,(1)雨水をできるだけ寄せつけない,(2)雨水の浸入経路を作らない,(3)雨水の浸入する力を断つことである。(1)は建物にできるだけ雨水を当てないことであり,また当たった雨水は速やかに流し去ることである。屋根は急こう配で,雨水がむらなく流れる単純な形態が雨仕舞しやすい。降雨をまともに受ける屋根を別にすると,壁や開口部はまずできるだけ雨を直接当てないくふうが必要となる。日本の伝統的構法である軒を深く出し,開口部の上部には庇(ひさし)を設けるのは日射を遮るためのものでもあるが,壁や開口部の雨仕舞にもきわめて有効なものである。日本の南西部の多雨地域の民家には,雨よけ板と呼ばれる軒先と螻羽(けらば)に垂直に垂らした幕板を取り付けその効果を高めている例や,屋根で保護しにくい妻壁を守るために水切瓦や水切庇を何段にも取り付ける例を見ることができる。このような軒や庇で覆われていてもなお壁の下部は横なぐりの風雨にさらされやすい。とくに雨に弱い土壁の場合はその保護のために瓦板,樹皮,割竹などで覆いを取り付けることも伝統的に行われてきた。これらにより壁の亀裂や柱との間のすきまが生じても雨漏りを防ぐことができると同時に土壁の耐久性を高めている。(2)の例としては屋根全面にアスファルトや防水シートのような吸水性のない材料で被膜を作る方法や,部材相互の接合部を充てん剤で埋めてしまい建物の外被からすきまをなくす方法がある。このような構法の出現により雨の多い日本でも水平に近い屋根が可能となった。ただしこれらの方法は建築当初は完全な水密も可能であるが,耐久性に問題がある。すなわち経年による建物の変形や熱収縮などによる亀裂の発生と防水層や充てん剤の劣化による漏水事故も少なくない。(3)の雨水の浸入する力としては,建物内外の気圧差,気流,雨滴のもつ運動エネルギー,重力,毛細管現象,表面張力などがあり,これらに対処するくふうを施せば建物にすきまがあっても雨仕舞が可能である。例えば瓦は中央がくぼんで両端が高くなっているので雨水はその低い中央部を流れ,両端の重ね目から瓦の裏側に空気が抜け,瓦の表と裏の気圧差をなくし,風圧で雨水が瓦の重ね目から逆流するのを防いでいる。また,雨仕舞上の欠点となりやすい開口部の周りを例にとれば,水がたまる敷居の上面に水垂れこう配を設け,さらに強風時の運動エネルギーの加わった雨水を防ぐために室内側を立ち上げる。これを水返しといい,ここに毛細管現象の起きないように,水返しじゃくりをとるのがていねいなしごとである。敷居の下面には水が壁に伝わらないように水切りを設ける。また鴨居(かもい)上部にも水切板を設け壁表面を伝わった雨水が上枠上面から室内に浸入するのを防ぐ。今日,建物が高層化するにつれ,外壁の雨仕舞が問題となっている。高層部では風圧も大きく庇などでの保護もむずかしい。このような外壁の接合部の雨仕舞のために,従来一般的であった充てん剤ですきまを埋める方法は,その工事のむずかしさや耐久性に難点があることから,伝統的な雨仕舞の方法,すなわちすきまをもちながら雨水が建物内部に浸入しにくい機構を作る方法が試みられている。
執筆者:安藤 邦広
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
建物への雨水の浸入を防ぎ、かつ漏れた雨水を処理すること。したがって広義には屋根面、外壁面全体の防水を含むが、通常はそれらのなかでとくに雨漏りをおこしやすい部分、たとえば屋根の端部(螻羽(けらば)、軒(のき))や谷、パラペット(屋上にある手すり壁)の立ち上がり箇所や天端(てんば)(上端のこと)、壁では開口部周辺などの扱いをさす。これらの部分では、通常の屋根面や壁面とは別に特殊な防水処理を施さなければならない。たとえば勾配(こうばい)屋根の谷では、その部分に雨水が集中して流れるので、底に銅板など、とくに水の浸透しにくい材料を敷くなどの処置である。また、陸(ろく)屋根では防水層を単に水平面に置くだけでなく、パラペットに沿わせて数十センチメートルは立ち上げておかなければならない。窓の上下辺に沿って外壁に突起をつくる(上辺の突起をとくに長く突き出したものがひさし)のも一種の雨仕舞で、これを水切りとよぶことがある。外壁にはモルタルのような多少とも浸透性のある材料を用いることもあるが、水切りは金属板のような不浸透性材料で覆っておかなければならない。
[山田幸一]
…地表の岩石が風雨や日射にさらされて変質される作用をいう。その場合岩石はもともとの位置を変えることなく,岩体の周囲から影響を受けて分解しやすい状態になったり,破壊されたり,脆弱にされたり,着色されたりする。風化には機械的風化作用mechanical weatheringと化学的風化作用chemical weatheringとの2種がある。機械的風化作用は物理的風化作用ともいい,日射と夜間の冷却のような温度変化により岩石・鉱物に差別的膨張収縮が起きたり,融解水が割れ目にしみ込み凍結膨張して楔(くさび)作用を及ぼしたりして,その結果岩石が破砕される作用をいう。…
※「雨仕舞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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