雲南(省)(読み)うんなん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「雲南(省)」の意味・わかりやすい解説

雲南(省)
うんなん / ユンナン

中国西南部の省。略称は滇または雲。4地区、8自治州、15市(省直轄市4、県級市11)に分かれ、80県、29自治県が含まれる。省政府の所在地は昆明(こんめいクンミン)市。面積39.4万平方キロメートル、人口4076万6183(2000)、うち3分の1はイ族、ペー族、タイ族など22の少数民族である。中国における古人類の居住地の一つであり、元謀(げんぼう)原人や古猿の化石ならびに新石器時代の遺跡遺物が発見されている。歴史時代に入ってからは多くの民族の小国が分立し、なかでは秦(しん)・漢代の滇国、唐・宋(そう)代の南詔(なんしょう)国、大理国が知られる。これらの時代には部分的には中央政府に属する州、郡が置かれたが、元代に雲南行中書省となり、全域にわたって中央政府の支配下に入った。さらに明(みん)代に雲南布政使司が置かれ、清(しん)代に雲南省と改められた。

 地勢は北高南低であり、北西部はチベット高原に続く横断(おうだん/ホントワ)山脈、東部は標高2000メートル前後の雲貴(うんき/ユンコイ)高原、南部は元江、瀾滄江(らんそうこう/ランツァンチヤン)などの河谷平原で、平均標高は500メートル前後である。南部の河谷平原と雲貴高原上の壩子(はし/パーツ)とよばれる盆地が農業地帯である。また高原上は石灰岩地帯であるためカルスト地形が発達し、路南(ろなん)石林がその代表である。この地形を流れる河川のなかには、地下を流れる部分も多く、地下水力発電所も建設されている。一般的に低緯度にあるため気温の年較差が少ないが、内陸部のため日較差は大きい。昆明は春城(常春の都市)とよばれるほど気候の穏やかな土地である。しかし、北西部は高山であるために気温の垂直変化が著しく、また南部は亜熱帯気候である。年降水量は平均1000ミリメートルを超えるが、5~10月の雨期に集中する。

 農作物は米、トウモロコシを主とし、ほかに小麦、ソバジャガイモがある。かつては陸稲の栽培面積が多かったが、現在では水稲が増加している。工芸作物ではアブラナが多く、特産物としては普洱(ふじ)茶(プーアル茶)、雲南大葉(マルバタバコ)として知られる雲煙、林産物の思茅木耳(しぼうきくらげ)、クルミがある。南部ではコーヒー、コショウ、ゴム、バナナ、サトウキビなどの熱帯作物も栽培されている。北西部と南西部は森林が多く残されており、寒帯から熱帯に至る各種の樹木がある。雲南マツ、アブラギリ、チーク、シタンなどが代表的なものである。また茯苓(ぶくりょう)、三七(サンシチニンジン)などの漢方薬材も豊富である。地下資源は非鉄金属が多く、箇旧(かきゅう/コーチウ)の錫(すず)、東川(とうせん/トンチョワン)の銅、会沢(かいたく)の鉛と亜鉛、晋寧(しんねい)と澄江の燐(りん)鉱石、一平浪の石炭などがある。また岩塩の分布が多く、塩豊、塩興、広通などで採掘される。特産物として大理の大理石がある。工業は昆明を中心に鉱業地域では製鉄をはじめ各種の冶金(やきん)と機械工業、化学工業がおこっている。また製茶、たばこ、製塩、食品加工などの工業が盛んで、宣威(せんい)のハムは、たばこ、茶、漢方薬材とともに輸出品となっている。

 国内各地方を結ぶ成昆、貴昆、南昆の主要幹線鉄道のほか、省内を結ぶ蒙宝、盤西、東川などの支線が走り、また昆河線は狭軌だがベトナムと結ぶ国際線である。航空路は北京(ペキン)、広州(こうしゅう/コワンチョウ)などの国内都市、ミャンマー(ビルマ)のヤンゴン(ラングーン)と結ぶ航路が昆明に通じ、省内では保山(ほざん/パオシャン)、思茅(しぼう/スーマオ)、昭通(しょうつう/チャオトン)に通じている。道路交通は昆明を中心に省内各地に延びており、なかでもミャンマー国境の畹町(えんてい)市へ通じる道路は中日戦争当時「ビルマ公路」として有名であった。また本省西北隅からチベットに通じる滇蔵公路も完成している。

[青木千枝子・河野通博]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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