電気防食(読み)デンキボウショク(その他表記)electrolytic protection

デジタル大辞泉 「電気防食」の意味・読み・例文・類語

でんき‐ぼうしょく〔‐バウシヨク〕【電気防食】

水中土中金属構造物に電流を流して電位を操作することで、局部電池の形成を防ぎ、その腐食を防ぐこと。

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改訂新版 世界大百科事典 「電気防食」の意味・わかりやすい解説

電気防食 (でんきぼうしょく)
electrolytic protection

溶液環境に接している金属製構造物の電極電位を操作することによって,その構造物の腐食を防止する技術。電極電位を基準値(防食電位)以下に下げることで目的を達成するカソード防食cathodic protection陰極防食ともいう)と,電極電位を上げて不働態領域に保つことで目的を達成するアノード防食anodic protection陽極防食ともいう)とがある。アノード防食は化学工業において無機酸などを使う装置の防食法としての適用例が知られている。しかし通常単に電気防食という場合には,実用例が多く,技術的にも広い適用範囲をもつカソード防食を意味する。

 鉄鋼材料の海水中,土壌中でのカソード防食の基準としては経験的に硫酸銅電極に対して-0.85V(これは標準水素電極に対して-0.53Vである)が選ばれ,防食電位と呼ばれる。鉄鋼構造物の電位をこの値まで下げるために必要なカソード電流(防食電流)の値は環境や経過年数によって大幅に変化する。構造物に防食電流を供給するには流電陽極方式と外部電源方式との二つの方式がある。流電陽極方式は亜鉛アルミニウムマグネシウムなどの溶解時の電極電位の低い材料を構造物と短絡していわゆる犠牲陽極として用いるものである。外部電源方式では外部直流電源の陰極に構造物を,陽極に補助陽極を結線して電解電流を流す方法である。海水中での適用では,カソード電流によって鉄鋼材料表面の近傍がアルカリ性になり,カルシウム塩CaCO3,マグネシウム塩Mg(OH)2の混じったスケール皮膜が沈着して防食効果を高める。防食目的の塗覆装との併用も効果的であり広く用いられる。

 カソード防食が適用される例としては,港湾施設,船舶,海洋構造物,土中埋設管,油井管,復水器,熱交換器,貯蔵タンク底板などがあげられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「電気防食」の意味・わかりやすい解説

電気防食
でんきぼうしょく
electric prevention for corrosion

水中や土中にある鉄鋼などの金属物体に電気を流して、その腐食を防ぐことをいう。

 金属の腐食は、あたかもその微細なある箇所が電池の正極、別の箇所が負極となり、これらが短絡されたものであるかのようにしておこる。これを局部電池作用といい、局部電池の負極の箇所の金属はイオン化して腐食され、その際に生じる電子が正極の箇所に移動して酸素の還元や水素の発生をおこす。鉄鋼体にその局部電池の負極よりも負の電位をもつイオン化傾向の大きい亜鉛やマグネシウムを接続すると、これら金属が優先的に腐食され鉄鋼体は腐食を免れる。このような方法を犠牲アノード法、流電陽極法などという。これとは異なって、防食すべき物体と黒鉛などの安定な電極材とを直流電源の負と正端にそれぞれ接続すると、電子は電流とは逆向きに、正極から負極へ向かって流れるので、対象物体はイオン化されず、その表面で酸素の還元などがおこり腐食を免れる。これを外部電源法という。これらの方法は、いずれも金属に電子を流し込み防食するのでカソード防食法(陰極防食法)といわれるが、これに対して、チタンなどの構造物体では、これを外部電源の正極に接続してその表面全面に耐食性の酸化膜を定常的に形成させて防食することも可能であり、これをアノード防食法(陽極防食法)という。電気防食は、船体、地下埋敷管など広範囲の物体の防食に用いられている。

[米山 宏]

『J・M・ウエスト著、石川達雄・柴田俊夫訳『電析と腐食』(1966・産業図書)』『C・ラングレン著、吉沢四郎他訳『金属の腐食防食序論』(1978・化学同人)』

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化学辞典 第2版 「電気防食」の解説

電気防食(法)
デンキボウショクホウ
electrolytic protection

電気化学的防食法ともいう.電気化学的に腐食を防止する方法.主として構造物,大型装置,船,地下埋設金属などの防食に用いられる.電気防食には,防食したい金属にカソード電流を流し,電位を卑にすることにより金属の溶解を抑制する陰極防食法(cathodic protection)と,アノード電流を流し,金属を不動態化する陽極防食法(anodic protection)とがあるが,一般には前者が用いられる.また,腐食速度をゼロにするのに必要なカソード電流密度,電位を,それぞれ防食電流密度,防食電位という.通電方式には次の2種類がある.
(1)外部電源方式:炭素,黒鉛,鋼,アルミニウム,マグネタイトなどをアノードとし,防食すべき金属をカソードとして外部電源により通電する方法.
(2)流電陽極方式:防食すべき金属をカソード,これより卑な金属をアノードとして電池を組み,外部回路を閉じて通電する方式で,アノードは必然的に消耗する.この電極を流電電極(galvanic anode)または犠牲電極とよび,Zn,Al,Mg,Mg-6質量%Al-3質量%Zn合金などが用いられる.

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百科事典マイペディア 「電気防食」の意味・わかりやすい解説

電気防食【でんきぼうしょく】

水中・土中など水溶液環境に接している金属製構造物の電極電位を操作して腐食を防止すること。たとえば海水中や土壌中の鉄鋼は局部電池を生成して腐食が進行するから,それが陰極になるように電流を通して防食を図る。構造物に防食電流を生じさせるには,構造物を直流電源の陰極に結線する方法と,低電位の亜鉛,アルミニウム,マグネシウムなどを犠牲陽極として構造物と接続する方法がある。船,港湾施設,埋設管などに応用。
→関連項目船底塗料防食

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電気防食」の意味・わかりやすい解説

電気防食
でんきぼうしょく
electric protection

海中における金属表面に腐食の起こる第1段階の反応は,海水のように電解質の溶液と接する金属と溶液の界面に電位を生じる電気化学反応である。たとえば合金などはさまざまな成分による条件と溶液側の種類,温度などにより局部的に電位が異なり,相互間に電池を形成して腐食する。このような腐食を防ぐ方法に,金属を直流の陰極として強制的に通電する陰極防食法があり,日本ではこの方法を,通常,電気防食法と呼ぶ。一方,アルマイト被膜処理のように金属表面に電気化学的に不動態域をつくって防食する方法を陽極防食法といい,この方法では常時あるいは断続的に電流を流す。

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