日本大百科全書(ニッポニカ)「防食」の解説
防食
ぼうしょく
corrosion protection
金属の腐食を防止すること。金属製の装置や構造物の腐食は、金属材料に関係する因子、使用環境に関係する因子、機械的応力に関係する因子、装置の構造に関係する因子などの複雑な組合せによって生ずるので、防食においてはこれらの因子のうちの一つかあるいは複数を制御することが行われる。
[杉本克久]
金属材料に関係する因子の制御
(1)金属組織の均一化 粒界析出物、溶質欠乏帯、異相などを再熱処理によって除く。(2)表面被覆 金属の表面を使用環境中で安定な別種の金属、合金、あるいは非金属物質で覆い、金属と環境とを遮断する。めっき、化成処理、セラミックス・コーティング、有機物被覆、合せ板などの方法がある。(3)耐食合金の使用 使用環境中で耐食性のある金属または合金を選んで使用する。耐食合金には鉄合金、ニッケル合金、銅合金、アルミニウム合金、チタン合金などがある。アルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムなどの純金属も耐食材料として使用される。
[杉本克久]
使用環境に関係する因子の制御
(1)有害物質の除去 塩素イオンなどの不動態皮膜を破壊する陰イオンを除去する。(2)溶存酸素の除去 中性水溶液中の金属の腐食は溶存酸素を除去するときわめて少なくなる。そのため水溶液中にヒドラジン、亜硫酸ナトリウムなどを加えて溶存酸素を還元して除去する。(3)水素イオン濃度(pH)の調整 鉄の腐食は水溶液を弱アルカリ性にすると低下するので、ボイラー水では水酸化ナトリウムまたはリン酸ナトリウムを添加してpHを10程度に調整している。(4)腐食抑制剤の添加 ある種の無機または有機の化合物は、水溶液中に少量添加するだけで金属の腐食速度を極端に低下させる。亜硝酸塩、ポリリン酸塩、クロム酸塩、モリブデン酸塩などの無機化合物、アミン類、ジアミン類、アミド類、エトキシル化合物、異種環状化合物などの有機化合物が用いられている。(5)陰極防食法 鉄の腐食は、鉄の電位を鉄が二価のイオンとなって溶解する反応の平衡電位以下にすれば停止する。外部電源を用いるかあるいは亜鉛などの卑な金属を張り付けて鉄を陰極分極して電位を低下させ、防食することが行われている。
[杉本克久]
機械的応力に関係する因子の制御
(1)残留応力の除去 焼入れ、溶接などによって生じた引張り残留応力を再熱処理で除く。(2)応力集中の排除 材料の1か所だけに引張り応力が集中しないようにする。
[杉本克久]
装置の構造に関係する因子の制御
防食設計 装置の設計の段階で腐食がおこりにくい構造にするよう配慮する。液体の滞留、流速の不均一、温度の不均一、応力の集中、異種金属との接触、すきまなどがない構造にする。
[杉本克久]