改訂新版 世界大百科事典 「青春残酷物語」の意味・わかりやすい解説
青春残酷物語 (せいしゅんざんこくものがたり)
《愛と希望の街》(1959)に続く大島渚(1932-2013)監督の第2作目の映画。1960年6月,安保闘争のさなかに公開され,伝統的な映画会社松竹の若い監督が反逆的青春を描いたということから,7月公開の吉田喜重監督《ろくでなし》とともに,〈松竹ヌーベル・バーグ〉と呼ばれ,以後,輩出する若手・新人監督の活躍を総称した〈日本ヌーベル・バーグ〉の代表作とされるに至ったが,当の大島はたんに暴力とセックスに着目したその風俗的呼称に激しく反駁(はんばく)した。脚本も大島のオリジナルで,主演は川津祐介と桑野みゆき。美人局をして刹那的に生きる学生男女の破滅にまで至るさまが,かつて学生運動に挫折した前世代,無力な親の世代との対比のもとに,安保闘争の街頭デモなど同時代の現実を取り入れつつ,鮮烈に描かれる。世間に反逆しているはずの主人公男女が,ともにみずからの肉体を物として売らねばならず,それを知るにおよんで関係を破綻(はたん)させてしまうドラマ展開の構図は,世代対立の図式とともに,観念的にすぎるともいえるが,2人の若い肉体の生理的描写の力がそれを超えて,映画としての魅力をもたらしている。2人が暴力とやさしさの相克をむき出しにすることによってはじめて結びつく木場の貯木場シーン,堕胎手術を終えて眠る女の枕もとで男がリンゴをかじりつづけるシーンなどに,そうした映画的な肉体感覚がよく見られ,鮮烈な印象を残した。大島は同年,学生運動を主題にした《日本の夜と霧》を撮った後,松竹を去る。
執筆者:山根 貞男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報