日本大百科全書(ニッポニカ) 「静脈炎」の意味・わかりやすい解説
静脈炎
じょうみゃくえん
静脈壁の炎症で、血栓を伴っていることが多い。血栓性静脈炎と静脈血栓症に大別される。血栓性静脈炎は静脈壁の炎症がまずおこり、その結果として静脈内に血栓を生ずるものと考えられている。静脈血栓症は非炎症性の血栓症と定義されているが、しばしば二次的に炎症症状を伴ってくるため、実際には血栓性静脈炎と厳密に区別することはむずかしい。血栓の原因としては、静脈注射や外傷による静脈損傷、ショックや脱水による血液濃縮、手術後の臥床(がしょう)や妊娠などによる下肢のうっ血などが考えられている。また、海外旅行に際し、長時間狭い航空機内で同じ姿勢をとることによる、いわゆるエコノミークラス症候群(ロングフライト血栓症)もその一つである。
静脈炎は一般に下肢や骨盤内に好発し、閉塞(へいそく)血管の部位や大きさによって症状も多様である。炎症により発熱、腫脹(しゅちょう)、疼痛(とうつう)、圧痛が生じ、うっ血が進行すると浮腫を、さらには局所的な壊疽(えそ)をおこしうる。血栓性静脈炎はしばしば浅い静脈におこることが多いので、内科的治療だけでよい場合も多い。一方、静脈血栓症は下肢や骨盤内静脈などの比較的深い静脈に発生し、とくに左側に多い。静脈還流の障害が著しく、血栓も遊離しやすく、そのため肺塞栓症を併発し重症化することもある。治療も内科的治療のほか、場合により血栓摘除術などの外科的手術の適応となる。
[木村和文]