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非暴力主義 ひぼうりょくしゅぎ

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

非暴力主義
ひぼうりょくしゅぎ

無抵抗主義」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

非暴力主義
ひぼうりょくしゅぎ
nonviolence

国家権力による圧制や個々の暴政、不正な政策や法律に対し、非暴力によって抵抗する主義。ただ暴力を使用しないということでなく、非暴力で抵抗する、非暴力的抵抗主義のことである。通常、無抵抗主義という場合も、抵抗しないで暴力や不正に黙従するというのでなく、非暴力によって抵抗することを意味するもので、この場合は非暴力主義と同じ意味となる。すなわち暴力的手段によっては抵抗しないということを意味する。そしてこの際非暴力とは単に物理的意味にとどまらず心理的暴力も含み、したがって相手を憎むことも排する旨主張することも多い(後述するM・ガンディーやM・L・キングなど)。[山崎時彦]

歴史的系譜

以上のような意味での非暴力主義は古来その例は多くみられるが、アテネの古典的悲劇作品にもその例があり(ソフォクレス『アンティゴネ』など)、古代ローマではユダヤ人や平民たちの軍役拒否、キリスト教徒の異教礼拝強制に対する抵抗などの例がある。古代インドでもヒンドゥー教徒、仏教徒、ジャイナ教徒の禁欲的苦行者に共通のアヒンサ(他の存在に危害を加えない)、軍人以外の階級にある、不満を非暴力的に示す方法としての断食やハルタール(一種のボイコット)、ときに集団移住がこの問題と関係がある。ふたたび西洋に戻ると11世紀カタリ派にも非暴力主義があるといわれる。市民革命期になるとクェーカーが独自の神観念で、物理的抵抗なしに相手に罪を自覚させることを目ざす積極的非暴力の方法で目だっている。その伝統は女性参政権運動や第一次・第二次両世界大戦期の平和運動、反ナチス抵抗運動にもつながっている。[山崎時彦]

思想史的展開


トルストイ
他方、思想家としては、非暴力の理由づけの面でトルストイの果たした役割が著しい。彼はクリミア戦争従軍のころから現存秩序への非協力、さらに積極的服従拒否へと進み、軍役、政府勤務、納税、陪審員就任などの拒否を主張した。彼の影響を受けたトルストイ主義者はボリシェビキ政権の下でも武器をとらず投獄や処刑を受けた。またトルストイがその救援に努力した、軍役拒否のドゥホボール教徒も非暴力主義で有名である。[山崎時彦]
ガンディー
またインドのガンディーは、非暴力の巧妙な戦術によって何十万もの人々を結集し、少ない流血でインド独立をかちとった。彼はジャイナ教徒の多い非暴力の伝統の強い地帯に生まれ、イギリス民主主義思想や西洋の宗教思想の基本的認識を身につけ、ソローやトルストイのほかにもラスキンから労働の尊厳や労働者の平等について学び、山上の垂訓にある急進的キリスト教の教えに学び、インドの古代叙事詩『バガバッド・ギーター』からも無私的行動の重要性を学び、また17世紀以来の西洋の平等主義的民主主義の思想と不正に対する組織的大衆的闘争の考え方を摂取した。彼は1906年トランスバール政府(南アフリカ)への抵抗の際「合法的手段によって阻止できないような悪法には規律ある法律違反によって抵抗すべきだ」と考え、その運動と方法にサティヤーグラハ(「真理の力」)を適用し、「正義と真理のために苦難を甘受するという範例を自ら示すことによって敵対者の回心を促そう」と考えた。その実践者サティヤーグラヒは自らの行動の結果を甘受すること、良心と相いれない法律を除き他のすべての法律に忠実に従うことを示して成功した。また南アフリカにつくったガンディー主義的農場で、宗教的苦行者の伝統を生かして菜食や衣服の簡素化を修得させ禁欲的規律も採用し、厠(かわや)掃除など最高の自己修練に近づき、訓練された市民集団を独立闘争の中心に置いた。また支配者イギリスに対する大規模なハルタール(ゼネスト)による平和的大衆抗議を行い、より少ない流血で闘い抜き成功した。彼は非暴力戦術を便宜的に利用する人々とも協力した。[山崎時彦]
ソローとM・L・キング
ガンディーにも影響を与えたソローは、単なる権力隔絶の無抵抗から、それが権力放置に通ずる点を自己批判して1840年代以後、黒人奴隷制・戦争反対の立場から、非暴力の市民的服従拒否としての納税拒否に出た。彼には黒人奴隷制廃止運動家W・L・ギャリソンの非暴力的闘争が影響を与えている。ソローの影響はアメリカではM・L・キング牧師にも及んでおり、同牧師にはガンディーの影響もあるから、非暴力主義の国際的な交流もみられるといいうる。
 キングは人種差別闘争での非暴力闘争の綱領の定式化と大衆説得によるその堅持のため努力した。彼が無名から一躍脚光を浴びるに至ったモントゴメリーのバス・ボイコット(1955~56)からベトナム戦争反対に至るまで、彼にも随従者にも厳しい苦難が続いたが、彼らの毅然(きぜん)とした非暴力的態度は傍観者・敵対者を動揺させ、被差別者への同情の拡大、有利な連邦裁判所判決、北・西諸州の世論やカナダ・西欧の世論の同情をもたらした。彼は非暴力行動の基本4段階として(1)不正についての事実収集、(2)交渉、(3)自己浄化、(4)直接行動(座り込み(シット・イン)、デモなど)をあげ、直接行動の目的は話し合いであり、それを拒む社会に話し合うべき問題があることを知らせることだといっているのは、示唆するところが大きい。
 なお南米のカマラ司教やベトナム統一仏教会、戦争否定・参戦拒否の平和協会、良心的兵役拒否者の運動にも注目すべきである。[山崎時彦]
『L・フィッシャー著、古賀勝郎訳『ガンジー』(1968・紀伊國屋書店) ▽G・ウッドコック著、山崎時彦訳『市民的抵抗』(1982・御茶の水書房) ▽V・シュローデト、P・ブラウン著、松村佐知子訳『キング牧師――黒人差別に対してたたかった、アメリカの偉大な非暴力主義の指導者』(1991・偕成社) ▽日本政治学会編『政治思想史における平和の問題』(1992・岩波書店) ▽C・カイトル著、岳真也訳『ガンジー――非暴力の兵士』(1995・潮出版社) ▽M・ガンディー著、森本達雄訳『わたしの非暴力』1、2(1997・みすず書房) ▽J・H・ヨーダー著、棚瀬多喜雄訳『愛する人が襲われたら?――非暴力平和主義の回答』(1998・新教出版社)』

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