領土問題(読み)りょうどもんだい

百科事典マイペディア 「領土問題」の意味・わかりやすい解説

領土問題【りょうどもんだい】

国家の権限が及ぶ領域のうち陸地をさす領土領有をめぐる,二国間あるいは多国間の問題。領土問題には古来さまざまな国家間で争われた歴史があるが,その決着のほとんどが戦争によってつけられており,平和的な外交交渉による解決例はきわめて少ない。戦争に勝利した側が,敗戦国から領土を割譲(かつじょう)させ,国際社会がそれを事後承認するという冷酷な現実政治がほぼ歴史的に貫徹してきた。日本が現在抱えている領土問題は,ロシアとの間で,千島列島のいわゆる北方領土問題,中国・台湾との間で尖閣諸島問題,韓国との間で竹島問題の三つである。ただし,日本政府は実効支配している尖閣諸島には〈領土問題〉は存在しないという立場である。そのいずれもが,第2次世界大戦における大日本帝国の無条件降伏を決定づけた1945年8月のポツダム宣言受諾,および1951年のサンフランシスコ講和条約に起因している。ポツダム宣言は日本が海外領土をすべて放棄することを明記しているが詳細な領土名を記していない。またサンフランシスコ講和条約は,第2次世界大戦終結後東西冷戦の激化とそれにともなう複雑な東アジア情勢のなかで日本の主権回復を承認した条約であり,この問題を解決したものではない。ポツダム宣言受諾の意味するところが,日本が領土的に日清戦争・日露戦争以前に戻ることであるのは明白だが,それが日本における近代国家成立後のどの時点の日本の領土的範囲なのかという歴史的検証とその国際的な承認がなされていたのではなかった。2013年5月に,中国共産党機関紙人民日報は,第2次世界大戦の日本の敗戦によって尖閣諸島が中国に返還されたばかりでなく,沖縄における日本の主権も否定されており,琉球問題・沖縄帰属問題は未解決である,と主張する論文を掲載した。日本政府はこれに強く抗議したが,この論文は中国には,日清戦争敗北以前の清帝国の版図と清朝への周辺諸地域の帰属(朝貢関係)を自らの潜在的な領土的範囲と考える見方が存在していることを明らかにしたものである(実際には琉球王国は両属関係を維持した)。また,尖閣諸島が歴史的には琉球王国の海域にあり琉球王国に属するもので,いわゆる琉球処分を無効とし沖縄が日本に帰属する歴史的経過を否定する見方に立つものともいえる。他方,日本政府が〈固有の領土〉という国際法には存在しない概念を繰り返し用いることに対する批判も多数存在している。現状の領土問題は,現在の国家が自国の歴史をどうとらえているかを示しているのだが,個別の領土問題は歴史的には多くは戦争と武力によって決着されてきた。ポツダム会談における第2次世界大戦後のドイツ・ポーランドの国境線オーデルナイセ線の設定はその典型で,ドイツは歴史的にはプロイセン領であった地域をほとんど失うことになった。戦争による解決があり得ず,またそうあるべきでない現在,当事国がナショナリズムに依拠した領土主張を繰り返すのではなく,歴史的検証にもとづく粘り強い相互交渉で解決の方向を見出す以外にない。2014年のロシアによるウクライナ領クリミア半島の一方的編入が近年では最大の領土問題である。国際司法裁判所裁定を仰ぐことも必要である。→ウクライナ問題領域領土
→関連項目靖国神社

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