飛行時間型質量分析計(読み)ヒコウジカンガタシツリョウブンセキケイ

化学辞典 第2版 「飛行時間型質量分析計」の解説

飛行時間型質量分析計
ヒコウジカンガタシツリョウブンセキケイ
time-of-flight mass spectrometer

TOF質量分析計ともいう.せん光光分解(法)衝撃波管などの高速化学反応の中間生成物の分析,負イオン寿命測定などに有効な質量分析計一種である.一般に,粒子の飛行速度を一定距離間で測定すれば,粒子の質量か運動エネルギーのいずれか一方を知れば他方を知ることができる.この方法を飛行時間法といい,中性子のエネルギー測定などに使用される.この原理を応用して,1955年,W.C. Wileyが図のような質量分析計を製作した.図の左方のイオン化室で電子線または光のパルス(パルス幅は通常0.2 μs,感度を高めるため5 μs ぐらいを使用することがある)により気体イオン化する.イオン化法によっては連続イオン化を使用する.図はRPD法を行う電子衝撃イオン源を示す.生成したイオンは,G1電極にイオン引き出しパルス(1 μs 程度のパルス幅)を荷電し,引き出したイオンを G1,G2 間の静電場で加速して,ドリフト管内に入射させる.イオンは束となって,ドリフト管(長さ1~2.5 m)内を同一運動エネルギーでそれぞれ等速運動をする.質量により速度が異なるため,イオン検出部への到達時間が異なる.各時間にイオン検出部に到達したイオンは,磁場型二次電子増倍管で電子流として増幅され,広幅増幅器(wide band amplifier)で増幅して,時間に対するイオン量の変化をオシロスコープで観察する.通常,イオン引き出しパルスは,10 kHz(場合によっては100 kHz)であるので,各100 μs ごとの質量スペクトルが得られ,オシロスコープに現れた質量スペクトルを高速カメラで撮影すれば,質量スペクトルの高速変化を追跡することができる.また,広幅増幅器のかわりに直流増幅器を使用し,イオン到着時間をトリガーし,遅延時間をかえる時間走査をすれば,記録紙に記録することができる.本機器は分解能は高くはなく,400程度であるが,上記のような
(1)高速反応中間体の分析,
(2)加速された中性粒子も観測できるので,数 μs から ms 程度の自動電子脱離に対する寿命をもった負イオンの寿命の測定,
(3)イオン化とイオン引き出し時間を変化させて,イオン-分子反応の反応速度を直接測定すること,
(4)イオン化の間は,イオン化室を無電場状態にできるので,イオン化電圧出現電圧の測定,
などに独自の応用範囲をもっている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報