食肉加工(読み)しょくにくかこう

改訂新版 世界大百科事典 「食肉加工」の意味・わかりやすい解説

食肉加工 (しょくにくかこう)

食肉の冷蔵,冷凍やハムソーセージ,肉缶詰,カレーなどの肉を使ったレトルト食品の製造,ハンバーグ,コロッケなどの冷凍食品の製造およびこれらの肉製品の包装を食肉加工という。広義には魚肉も食肉であるが,一般にはウシ,ブタなどの畜肉と鶏肉などの食鳥肉の加工を意味する。屠畜(とちく)場に運ばれたウシ,ブタなどの肉用家畜は屠畜検査員によって生体検査を受ける。生体検査の結果,法定の伝染病などの異常を認めた場合は屠殺禁止の処置がとられ,異常を認めなかった家畜には標識を付する。屠殺を終わった頭部,内臓,枝肉は屠畜検査員の検査をうける。内臓は気管食道肺臓,心臓,横隔膜,縦隔膜,膵臓,肝臓,脾臓胃腸,乳房,生殖器について,また各付属のリンパ節についても切開し異常の有無を精密に検査する。枝肉は(1)可視部の各リンパ節に変状はないか,(2)皮下組織に浮腫またはにかわ様浸潤はないか,(3)筋肉内の血量(放血の状態)はどうか,(4)充血,出血,鬱血はないか,(5)脂肪,筋肉の色,光沢はどうか,(6)膿瘍,腫瘍はないか,(7)筋肉,脂肪に壊死(えし)は認められないか,また気腫の状態を呈していないか,(8)寄生虫はないか,(9)骨に異常はないかについて,少しでも異常が認められればさらに細密に検査する。

 生体検査と屠殺後の検査の結果により,全部廃棄,一部廃棄,合格,条件づき合格の4種に判別する。合格した枝肉には食用紫色素の検印をブタでは6ヵ所におし,ウシでは9ヵ所におす。肉用鶏は,屠畜場でなく食鳥処理場で屠殺解体するから,屠畜検査員の検査を必要とせず,一般の食品と同様に食品衛生監視員の監督下にある。屠殺解体が終了し,検査に合格した食肉は速やかに冷却する。これは汚染菌の増殖の抑制,筋タンパク質の変性防止のために必要である。筋肉は健康な生体内にあるときは元来無菌であるが,屠殺解体された時点から汚染が始まる。屠畜の外皮,胃腸の内容物,器具,用水,空中落下菌または従業員からの汚染が考えられるが,これらの汚染の原因菌の大部分は中温菌で,37℃付近に発育至適温度がある。そのため,これらの中温菌の増殖を抑制するうえで,食肉加工にあたっての低温保持はきわめて重要な意義をもつ。ハム,ソーセージなどの肉製品の大部分は製造の工程で加熱を行うが,この加熱はパスツーリゼーションというもので,中心温度63℃,30分を基準とする。この殺菌法は細菌の芽胞は死滅しないから,製造後生き残った芽胞が発芽増殖しないように低温に保持しなくてはならない。缶詰肉やレトルト食品の加熱はレトルト殺菌といわれるもので,高圧下で約120℃で加熱する。これによって菌はほとんど死滅するので,常温下での保存が可能となる。また肉製品の包装は最近では少量のものやスライスしたものが多くなってきたが,これらは表面積が大きいので加熱後の再汚染の機会が多い。これを防ぐためバイオクリーンルームという空気ろ過器を用いた塵埃(じんあい)や細菌のひじょうに少ない室内でスライスパックする方法が普及しつつある。
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牛肉,豚肉,鶏肉などの肉類原材料として,ハム,ベーコン,ソーセージなどの加工品を製造する食品工業の一部門。今日の食肉加工品に近いものがいつごろ日本で製造されるようになったかは定かでない。しかし江戸時代末期の《清俗紀聞》や《卓子式(たくししき)》には,今でいうハムのことやハムの製法が紹介されていることから考えると,そのころの長崎ではすでにハムが製造されていたと思われる。日本人による最初のハム製造については,1868年(明治1)中国人から技術を取得した長崎の松本辰五郎が製造したとする説などがあるが,記録に残されているものとしては,72年片岡伊右衛門が長崎に来遊したアメリカ人ペンスニからハムの製法を伝授され,同年工場を建設して製造を開始したというものが最も古い。長崎に次いで,北海道開拓使庁が東京農事試験場で73年に,札幌養豚場で76年にハムを試作している。また1874年に,イギリス人ウィリアム・カーティスが神奈川県でホテル業のかたわらハム,ベーコンを製造し,カーティスからこの製法を会得した日本人が86年に製造したものがいまの〈鎌倉ハム〉の元祖といわれている。しかし,食肉加工品が庶民の食生活に浸透したのは第2次大戦後のことであり,高度経済成長と食生活の洋風化の波に乗って,食肉加工品に対する需要が高まっていった。日本の食肉加工業は日本ハム,伊藤ハム,プリマハム,丸大食品,雪印食品の大手5社と,明治ケンコーハム,高崎ハム,相模ハム,林兼産業,滝沢ハムなどの中堅会社,それに多数の小規模業者という構図になっている。大手どうしのシェア競争,中堅の大手追上げという動きのなかで,小規模業者は淘汰される方向にある。1994年の食品加工品生産量はハム16万8000t,ベーコン7万7000t,ソーセージ30万4000tの合計54万8000tで,1965年の13万tの4倍以上となっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の食肉加工の言及

【肉食動物】より

…このことばは,(1)鳥獣を主食とする哺乳類(この意味では英語でflesh eaterという表現がある),(2)捕食性の動物食動物,(3)動物食動物の3通りの意味で使われる。本来は(1)のみを意味するものであったが,一方では哺乳類以外の運動性動物一般へ,さらに固着性動物も含む動物一般へ,一方では鳥獣食以外の昆虫食,魚食,貝食などへ,さらにプランクトン食も含む動物食一般へと概念が拡張されて,(2)と(3)の意味が生まれた。…

※「食肉加工」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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