先端に小型カメラやレンズを内蔵した管状の医療機器。太さは5ミリ~1センチ程度で柔軟性がある。口や肛門から挿入し、食道や胃、大腸などの内部を観察する。胃などの粘膜にある比較的小さな病原を切除するために使う場合がある。口からのみ込むカプセル型の内視鏡もある。オリンパスの医療機器事業では内視鏡が主力製品。
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体のなかにある空間,すなわち内腔を観察するための道具をいう。内部を見る器具を意味するエンドスコープendoscope(endoは内部,scopeは望遠鏡などものを見るための道具)の訳語。対象とする内腔が胃であるか膀胱であるかなどによって,胃鏡あるいは膀胱鏡などと呼ばれ,内視鏡はそれらの総称である。日本でこの用語が広く用いられるようになったのは,1961年に日本内視鏡学会が設立された以降のことである。内視鏡を用いて検査することをエンドスコピーendoscopyというが,日本ではこれをも含めて内視鏡と呼ぶことが多い。
内視鏡の源流は,ギリシア・ローマ時代に肛門を広げて痔疾患の診断と治療を行ったことに始まる。その器具はスペクラspeculaと呼ばれ,ポンペイの出土品のなかにさまざまな形式のものを見ることができる。
その後この道具は内部を見るためよりも難産の子宮口を広げるために使用されていたが,1807年にオーストリアのボツニーPhilipp B.Bozzini(1773-1809)がろうそくの光を用いて体内を照らす器具をくふうし,体の内部を直接見て診断しようという考えを発表した。彼の考えは〈かくされた体内をうかがう魔法のランプ〉と決めつけられて終わったが,これを実用化したのはフランスのドゾルモーAntonin J.Desormeaux(1815-94)であった。53年,彼はアルコール・テレピン油混合液を用いたランプの光を利用した巧妙な器具を発表して,尿道,膀胱,直腸などの病気の診断と治療に応用した。エンドスコープという用語を造ったのもドゾルモーである。その後,68年に,このランプと長さ47cmの金属筒を用いて,ドイツのクスマウルAdorf Kussmaul(1822-1902)が胃の内部をかいま見ることに成功している。
体内を照らして観察し治療しようという試みは,体の表面から近い部位については,19世紀後半に急速に進んだ。日光やランプの光を鏡で反射させることにより,十分な照明が容易に得られたからである。喉頭鏡の創始者はパリの声楽教師ガルシアManuel Garcia(1805-1906),眼底を見る眼底鏡の創始者は高名なドイツの生理学者H.L.vonヘルムホルツ(1821-94)とされている。
しかし胃や膀胱のような深部にある内腔を見るためには,体内に光源を持ち込む必要がある。最初に成功したのはドイツの泌尿器科医ニッツェMax Nitze(1848-1906)で,水冷式白熱白金線を光源とし,内部にレンズも組み込んだ本格的な膀胱鏡cystoscopeを作った。エジソンが発明した白熱電球が1890年ころから利用できるようになったことによって初めて十分に明るい照明が得られるようになり,膀胱,直腸,気管,食道などの検査や誤って飲み込んだ異物の除去に利用されるようになった。
しかし胃のように複雑に屈曲した内臓の内部を見るためには,自由に曲がる内視鏡が必要となる。ドイツの内科医シンドラーRudolf Schindler(1888-1968)は40枚以上のレンズを組み込んで30度まで曲げられる胃鏡gastroscopeを1932年に発明し,これによって胃の内視鏡検査は実用的なものとなった。しかし,この程度の曲りでは盲点も多く,使用には高度の技術を必要とした。そこで東京大学の宇治達郎(1919-80)はオリンパス光学工業の杉浦睦夫,深海正治らの協力を得て,50年に胃のなかに挿入して撮影できる小さい写真機を発明して胃カメラgastrocameraと名づけた。胃カメラでは胃の内部を直接に見ることはできなかったが,約30枚のカラー写真におさめることができた。この器械は東京大学の田坂定孝(1901-90)を中心としたグループの非常な努力により改良され,早期胃癌の発見に力を発揮した。このために胃カメラは日本全国に普及し,胃内視鏡検査のことが胃カメラと通称されるようになった。
一方,ガラス繊維(光ファイバー)の束で画像を送りうることは1930年ころから知られていたが,アメリカの内科医ヒルショビッツBasil I.Hirschowitz(1925- )は,それを利用して内視鏡を作ることに成功し,ファイバースコープfiberscopeと名づけた。これによって複雑な形の内臓の内部も自由に危険なく観察することが可能になり,内視鏡検査は広い範囲に手軽に応用されるようになった。
中国あるいは日本の古来の医学には,体のなかをのぞこうという考えはなかったようである。日本にはじめて内視鏡を導入したのは九州帝大耳鼻科の久保猪吉(1873-1938)で,気管や食道につかえた異物の除去に活用された。日本の内視鏡検査を世界一にしたのは胃カメラの発明と普及である。1955年に設立された胃カメラ研究会は日本消化器内視鏡学会へと発展し,97年現在2万5000人の会員を擁している。さらに胃カメラの開発でたくわえられた技術はファイバースコープの製作に活用された。現在では,内視鏡を用いた診断技術においても,その器具の製造においても日本が世界をリードしており,その研修のために日本を訪ねる専門家が絶えない。
目的とする部位により異なった構造の器具が用いられる。体の表面に近い鼻,耳,のど,肛門,腟の内腔を見るためには,それぞれ鼻鏡nosal speculum,耳鏡ear speculum,喉頭鏡laryngoscope,肛門鏡anoscope,腟鏡speculaが用いられる。これらは内腔を広げるための管やへら状のもの,あるいは柄のついた小さい鏡である。いずれも日常の診療に欠かせないたいせつな道具であるが,あまりにも単純な構造のために,とりたてて内視鏡とは呼ばない。しかし,これらはまぎれもなく内視鏡であり,歴史的にみればその原型である。
膀胱,腹腔,胸腔,直腸などを見るためには,先端に光源をつけた金属管に望遠鏡式のレンズを組み込んだものが用いられる。光源にはごく小さな電球が使用されていたが,最近は体外の光源から,光ファイバーを用い導く形式のものも多い。金属製で可撓性がまったくないので,ファイバースコープに対して硬性鏡rigid endoscopeと総称される。
食道,胃,大腸,気管などを見るためにはファイバースコープが用いられる。ファイバースコープで画像を送ることができる原理は,低屈折率のガラスを高屈折率のガラスで覆った光学用のガラス繊維(光ファイバー)を,両端でそれぞれの座標が等しくなるように並べて束ね,その一方の断端の面に画像を投影すると,その画像は光ファイバーの本数に相当する数の点に分解されて送られ,その途中経路がどのように曲がっていても他の断面に同じ画像を作ることによる。束ねてあるファイバーの本数が多いほどよい画像を送ることができるわけで,直径が毛髪より細い光ファイバーが数千本以上束ねられている。さらに照明用の光を体内に導くための別の光ファイバーの束が組み込まれているほか,生検鉗子の出し入れや,空気や水を送りあるいは吸引するためのパイプ,先端部を動かすためのワイヤなどがファイバースコープには組み込まれている。先端部に小型の胃カメラを組み込んだものもある。用途により太さや長さはさまざまで,最も細いものは2mm以下,最も長いものは3mに及ぶ。安全性,耐久力のほか,消毒が完全に行えるように多くのくふうがなされている。また,ジェットエンジンの内部を見るためなどの工業用のファイバースコープも作られている。
日常の臨床で内視鏡で調べることができるのは,食道,胃,小腸,大腸,喉頭,気管,気管支,鼻腔,副鼻腔,尿道,膀胱,腟,胸腔,腹腔,胆管,関節腔などである。さらに研究的には,膵管,尿管,腎盂(じんう),子宮内部,脳室,心臓の内部をも見ることができる。各内視鏡については別欄〈各種の内視鏡〉を参照されたい。
内視鏡とくにファイバースコープの改良が進み,苦痛なく安全かつ容易に検査できるようになったことにより,内視鏡検査が広く行われるようになった。〈百聞一見に如かず〉のたとえのように,直接目で見ることは最も有力な診断法である。さらに必要に応じて生検や細胞診を行って顕微鏡レベルでの診断ができること,放射線被曝(ひばく)がまったくないことから,胃腸疾患の診断に際しては,X線透視に代わって主役となってきた。したがって,どこの病院にも内視鏡室や内視鏡部が設けられるようになった。また,その専門医の認定制度も定められている。
食道や胃腸ではすべての種類の病気が内視鏡検査のよい対象であるが,癌の早期発見には最適である。気管支鏡bronchoscopeは,X線撮影の弱点である肺門部の小病変の発見と,X線で発見された病巣の生検を目的に行われることが多い。喉頭鏡,気管支鏡は誤って飲み込んだ異物の除去のためには不可欠である。尿道鏡urethroscope,膀胱鏡cystoscopeは診断のほかに,後述の造影や手術のためにも広く利用されている。腹腔鏡laparoscopeは,日本では主として肝臓疾患の診断のために行われているが,ヨーロッパでは試験開腹の代り,あるいは不妊症の診断にも利用されている。胆道鏡choledochoscopeは,胆石の診断と,手術で取りきれなかった胆石の除去に用いられている。関節鏡arthroscopeは慢性関節炎の診断が主目的である。
副作用としては,麻酔剤によるショックと内視鏡による損傷が主である。前者は,事前の十分な問診と安全な麻酔剤の使用により,今日ではほとんど根絶された。後者は,出血と穿孔(せんこう)がおもなものであるが,ファイバースコープが細くかつ柔軟性に富むようになったために,きわめて少なくなった。19世紀末の硬性鏡による胃の内視鏡検査にあたっては事故が生じても苦情はいわないという承諾書が求められたほどだが,今日のファイバースコープによる胃の検査では,それが契機となって潰瘍が穿孔するといったようなことが絶無ではないにしても,数千回の検査に1回あるかないかくらいである。
内視鏡を用いてさまざまな検査が行われるようになった。
(1)生検biopsy,細胞診cytodiagnosis 径2mm以下のきわめて小さいはさみまたはさじ状のもの(生検鉗子)を内視鏡内に設けたパイプを通して挿入し,目的の部位から組織や細胞を採取して顕微鏡的に検査する。胃腸や気管支の粘膜には皮膚におけるような痛覚はないので,痛みなく実施できる。採取される組織は米粒の半分にも達しないが,診断には十分である。生検・細胞診検査は癌の診断には不可欠である。
(2)色素内視鏡検査chromo-endoscopy 膀胱鏡で観察しながら色素を注射して左右の尿管からそれが排出されるまでの時間を測ることによって,左右の腎臓の働きを別々に知る目的で始められた。さらに内視鏡下に色素をまいて,凹凸にコントラストをつけて小さい癌を発見する,粘膜との反応あるいは吸収状態の差から表在性の癌などの病変を診断する,分泌物を染めて機能を調べるとか,蛍光物質を注射して,それが粘膜面に現れる時間の差から血流の分布を知る,などの方法がある。
(3)内視鏡を用いたX線造影 内視鏡を用いて目的の部位に造影剤を注入してX線撮影する方法である。膀胱鏡で観察しながら尿管口から逆行的に腎盂へ造影剤を注入して撮影する方法(逆行性腎盂造影retrograde pyelography)と,十二指腸鏡で観察しながら十二指腸乳頭に細いチューブを挿入して造影剤を注入し胆管や膵管を撮影する方法(逆行性胆膵管撮影endoscopic retrograde cholangio-pancreatography(略称ERCP)。なお詳細は〈胆囊造影〉の項参照)が多く行われる。前者は結石や腎疾患の診断のために,後者は黄疸時や慢性膵炎あるいは膵癌が疑われる症例に主として行われる。
(4)その他の生理学的検査 内視鏡で見ながら,目的とする部位の温度,血流,酸度,内圧などを直接測ることができる。これは主として病態を研究する目的で行われる。
内視鏡は,以前から異物の除去など治療の目的に活用されてきたが,器具の改良によりその範囲はますます広がりつつある。内視鏡の使用によって開腹などの大手術が不要となるため,高齢者など体力が減じた患者にも応用できるなど利点は大きい。
(1)異物の除去 のど,気管,食道,胃などに誤って入った異物は,かなり大きなものまで内視鏡で見ながら取り出すことができる。異物をつかむためのいろいろな器具が準備されている。
(2)結石除去 膀胱結石(尿路結石)は機械的または電気的に破砕して除去する。手術で取りきれなかった胆石も内視鏡的に除去することができるが,胆石を破砕する試みはまだ実用化に至っていない。
(3)ポリペクトミーpolypectomy ポリープすなわちキノコ状の粘膜のたかまりは,その根元にワイヤをかけて電気的に切断することで容易に除去できる。非常に大きなもの,とくに基部が太いもの以外はこれで治すことができ,ポリープ型の初期癌はこれで根治できる。
(4)切開手術 内視鏡を用いて電気的に切除をすることができる。前立腺肥大症による排尿障害に対しては最も一般的な治療法で,経尿道的切除transurethral resection(TUR)と呼ばれる。食道などの狭くなった個所の切開,十二指腸乳頭を切開して胆管内の結石を除去する(パピロトミーpapillotomyと呼ばれる)なども実用化されている。
(5)レーザー治療 光ファイバーでレーザー光を導くことで,食道,胃,気管などの初期癌を根治できる可能性が確かめられた。このほか,レーザー光は止血目的にも利用されている。
(6)その他 内視鏡を用いて病巣に注射することによる食道静脈瘤や難治性胃潰瘍の治療,食道癌などで狭くなった部位へのパイプの挿入,腹腔鏡を用いた不妊手術などが行われている。
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管腔(かんくう)臓器または体腔内を直視下で診断および治療することを目的とした機器の総称。広義には耳鏡、腟(ちつ)鏡、肛門(こうもん)鏡なども含まれるが、狭義には光学系を内蔵するものをさす。これには硬性鏡と軟性鏡がある。硬性鏡は金属製パイプにレンズ・プリズムの光学系を内蔵したもので、膀胱(ぼうこう)鏡、直腸鏡、腹腔鏡、関節鏡などがある。軟性鏡には胃カメラとファイバースコープが含められる。内視鏡の検査適応領域は広いが、ここでは消化器領域を中心に述べる。
内視鏡の歴史は古く、19世紀初めに喉頭(こうとう)鏡、食道鏡、その後に胃鏡が作製されているが、これらはすべて金属製パイプを目的部位に挿入して観察するもので、制約が多くて日の目をみずに終わった。20世紀に入り軟性胃鏡が開発されたが、数多くのレンズ系を通して結像するので、柔軟性や光量など機器の性能に制約が多く、撮影した写真も暗くて診断能が低劣であった。1950年(昭和25)日本で胃カメラが作製され、臨床上広く普及したが、実際に目で見て撮影することができないものであった。しかし、その撮影した写真による診断価値は優れ、今日でも捨てがたいものがある。ついで登場したのが、ガラス繊維の透光性と柔軟性を利用したファイバースコープである。これは革命的な内視鏡で、その後内視鏡診断学上に画期的位置を占めるに至った。現在では食道から直腸まですべての消化管、胆道、膵管(すいかん)まで適応範囲が広がっている。そのほか、気管支鏡、腹腔鏡、膀胱鏡、縦隔鏡、関節鏡などがあり、それぞれの領域で評価されている。これら内視鏡はほとんどすべて生検が可能で、肉眼診断と同時に直視下採取組織診断が加えられる。
消化管の内視鏡学は日本で著しく進歩し、今日の消化管の癌(がん)における早期診断体制の中軸をなしている。本来、内視鏡は目で見ることを目的とするが、最近では機能検査に応用されて疾患の病態解明、さらに治療面への進出も著しい。内視鏡を用いての治療は、異物の摘出をはじめ、食道静脈瘤(りゅう)の硬化療法、上部消化管出血に対する早期止血、消化管ポリープの切断法、術後狭窄(きょうさく)の高周波利用による切開法、最近ではレーザー光線を用いて止血や癌の治療などが精力的に行われている。また胆道癌や膵癌などの手術不能例に対して、十二指腸乳頭括約筋を高周波切開し、総胆管や膵管へのドレナージを行い胆汁を排出させる閉塞(へいそく)性黄疸(おうだん)の内視鏡的内瘻(ないろう)形成術も行われている。同様の手技で胆管結石の非手術的排出もよく行われる。内視鏡にファイバー導光が導入されて以降、柔軟性がよくなって、従来の機器のような苦痛を患者に強いることがなく、検査が容易に行われるようになり、胃癌の集団検診に際し、食道癌の早期診断を含めて内視鏡検査を第一次選択として用いるべきであるとする考え方も強調されている。
[大柴三郎]
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…近年,CT(コンピューター断層撮影)検査や超音波診断など,患者に疼痛などのない検査法が診断に大きな進歩をもたらしている。 内視鏡検査体腔内や臓器内腔を直接肉眼で観察できるようにくふうした器械を内視鏡というが,食道鏡,気管支鏡,胸腔鏡,腹腔鏡,関節鏡,膀胱鏡などがあって,組織検査を行うことができ,癌,潰瘍などの早期診断に欠かせない検査である。 その他の検査喀痰検査は呼吸器系の病気の検査に役立つ。…
…原子核の核磁気共鳴(NMR)を利用したCTも開発されている。 内視鏡は,日本でとくに発展をみた検査法で,胃,腸,気管支,泌尿器などの管腔に光を運ぶ細いガラス管を束ねてつくったファイバースコープを入れて観察や撮影を行い,同時に先に備えた器具で疑わしい組織を採取する。 生体から組織を採取して組織学的に検索することを生検(バイオプシーbiopsy)という。…
※「内視鏡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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