身寄りのない老人や種々の理由で家庭生活を過ごせない老人を収容・保護する施設。歴史的にみると,この種の施設の設立には宗教的慈善行為があずかっている。キリスト教の浸透にともない,身寄りのない老人を含む貧民を教会,修道院,施療院が世話していた中世ヨーロッパでは,13世紀以降,個人の喜捨や兄弟団によって都市に養老院がつくられた。また,儒教の教典《礼記(らいき)》王制篇などで為政者の仁愛が説かれる中国では,北宋末の12世紀初め,救貧政策の一環として全国の府州県に居老院(養老院)が設けられた。日本最初の老人専用施設でかつ初めて養老院の名称を用いた聖ヒルダ養老院(1895)の設立も,キリスト教の慈善思想に基づくものであった。宗教と結びついていた養老院も時代が下るにつれ世俗化し,公的施設として位置づけられるようになるが,養老院のあり方はそれぞれの社会,時代における〈老人〉観と切り離しては考えられない。なお,近代以降の日本の養老院については〈老人ホーム〉の項目を,また,〈老人〉〈慈善事業〉の項目も参照されたい。
執筆者:山本 泰男
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…巡礼はその疲労のためにも発病したが,また病気のゆえに巡礼に出た(とくに癩患者)。このため古いホスピタリティの延長上に,教会のもとで,病院(ホスピタルhospital)と宿泊所ないし救貧院,養老院(ホスピスhospice)が発展した。〈どんな目的でやって来た者にでも〉家を開く能力が私人に失われるとともに,犯罪人や政治亡命者を含む緊急避難者を保護する機能も教会のものとなり,これには教会の世俗権力に対する独立性の主張が関連している(アジール)。…
…財産のある者はあらかじめ修道院に土地などを寄進し,年老いたときには衣食住を修道院でまかなってもらうことができた。中世都市もこのような制度をとり入れて,養老院を建設しているが,それらはニュルンベルクのメンデル家の養老院のように定員12人くらいの小規模なものであり,慈善活動としての性格が強い。慈善事業【阿部 謹也】。…
…大別すると,老人福祉法にもとづく社会福祉施設としての老人ホームと,一般に有料老人ホームといわれている営利を目的としたものとがある。今日の老人ホームの前身は,身寄りのない貧しい老人を収容保護した養老院である。日本最初の老人専用の収容施設で,かつ最初に養老院の名称を用いたのは,イギリス人エリザベス・ソーントンが1895年に女性老人のみを対象として東京市芝区に設立した聖ヒルダ養老院である。…
※「養老院」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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