鉄道会社が管轄する土地のうち、乗降客などの駅利用者だけでなく一般消費者が利用できる駅構内の商業スペース。狭義には駅改札内の商業空間をさすが、改札外や駅上空間などを含めることが多い。「エキナカ」「駅中」などとも表記される。かつて駅内商業施設はキヨスクなどの売店や立ち食いそば店などが一般的であったが、生産年齢人口の減少などに伴う鉄道運輸収入の伸び悩みのため、鉄道各社が駅ナカの商業利用に注力し始めた。東日本旅客鉄道(JR東日本)が2005年(平成17)に大宮駅と品川駅に専門店街「ecute(エキュート)」をオープンさせた。さらに同年、東京地下鉄(通称・東京メトロ)が商業施設「Echika(エチカ)表参道」を開業させるなど、駅ナカビジネスが活発になった。駅ナカ商業施設はショッピングモール形式が多く、コンビニエンス・ストア、飲食店、ケーキ・菓子専門店、ジューススタンド、総菜専門店、化粧品店、雑貨店、100円ショップ、書店、CDショップ、衣料品店、語学教室、理髪・理容店、マッサージ店、保育所など多様な種類の事業者が入居している。駅ナカ限定の店もあり「駅ナカスイーツ」「駅ナカグルメ」といった用語も生まれた。多様な店舗入居を容易にするため、駅舎内の建設基準法など関係法令の規制緩和も進んだ。経済産業省の商業統計によると、駅ナカ(駅改札内事業所)の年間販売額は2007年に約2330億円あり、その後も高い伸びを示していると推計されている。2007年10月にはJR立川駅の「ecute立川」(開発面積約1万1500平方メートル)、2012年10月にはJR大阪駅の「エキマルシェ大阪」(店舗面積約4500平方メートル)といった大型駅ナカ施設も登場した。
駅ナカビジネスは集客力のある駅の公共空間を活用できるため販売効率が突出して高い利点がある。2007年の商業統計によると、駅ナカの売り場面積1平方メートル当りの年間販売額は約505万円と小売業平均のおよそ8倍弱となっている。最近はIC乗車券の電子マネーで決済できる店が増え、利便性が一段と向上した。鉄道事業者にとっては、駅ナカ施設からのテナント収入のほか、乗降目的ではなく駅ナカ施設のみを利用する消費者の入場券収入も見込める利点がある。一方、駅ナカビジネスが活発になったことで、駅前商店街などの利用者が減るという問題が起き、2005年には、京王電鉄井の頭線久我山(くがやま)駅の近隣商店が駅ナカ出店をめぐって訴訟を起こした事例もある。また駅構内施設の商業利用価値は周辺よりも低いことなどを理由に、駅ナカ施設への課税は沿線よりも優遇(固定資産税と都市計画税を原則として沿線路線価の3分の1に抑制)されてきたが、東京都は周辺商店街などとの不公平が生じたとして総務省に見直しを打診した。これを受け総務省は2006年3月に税制基準を改正し、駅ナカ施設に沿線並みの税を課すことになった。これにより2007年度に、東京都によるJR東日本など14社(82駅分)への追加課税額は約22億円となり、同様に大阪市は約5億3000万円、神戸市は約1億9000万円の増収となった。
[編集部]
(懸田豊 青山学院大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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