駆けつけ警護(読み)かけつけけいご

知恵蔵 「駆けつけ警護」の解説

駆けつけ警護

国連平和維持活動(PKO)など国連やNGO職員、及び他国の軍隊などが攻撃にさらされた時、地理的に離れた地域で共通作戦に携わる部隊が駆けつけて実施する救援活動。政府は、16年夏の参議院選挙以降にPKOに派遣する部隊について、これを任務に追加する方針。実現すれば、自衛隊の活動に安全保障関連法制(安保法)を適用する初の事例となる。
「駆けつけ警護」は、日本の安全保障を巡る独特の概念である。日本以外の軍隊では、作戦上の任務の一環と見なされ、特別な作戦行動に当たらないため「駆けつけ警護」に相当する、特別な作戦運用用語はない。しかしながら、日本の自衛隊は軍隊ではないという建前があることから、その是非について論議されてきた。それは、警護という名ではあるが、実質的には武力を行使する救援作戦に従事することとなるからである。第三国文民や部隊が武力攻撃にさらされている場合、当然にこれを攻撃している武装勢力がある。したがって、警護任務にあっては、現に攻撃を行っている反政府勢力など、国家に準ずる組織との戦闘行為が想定される。それは、武力行使に当たると考えられ、憲法9条に抵触する。日本が武力攻撃を受けたわけではないので、自衛権の範囲も明らかに逸脱している。これに対して、国連は任務遂行に当たって、「要員を防護するための武器使用」(Aタイプ)や、「国連PKOの任務遂行に対する妨害を排除するための武器使用」(Bタイプ)を認めている。日本がPKOなどへの協力を求められる中で、この齟齬(そご)を埋めるものとして、武力行使と武器使用をあえて分離し、「自己保存のための自然権的権利」として武器使用を合法化した。この論拠によって、PKO協力法(1992年)、テロ特別措置法(2001年)、イラク復興支援特別措置法などは、武器使用を限定し、歴代内閣内閣法制局も、基本的には「駆けつけ警護」は認められないとの立場に立っていた。しかしながら、そのような特殊な問題の立て方をすることは、諸外国の理解を得にくく、また心情的な見解や功利的発想などから、任務遂行においても武器使用や武力行使を容認すべきであると主張する政治家や言論人もあった。軍事的分担を日本に求める米国の意向などを背景に、集団的安全保障を自らの政治課題とする安倍総理も、かねてからこの問題について、「仲間を見殺しにしていいのか」などという主張をしばしば繰り返してきた。
15年9月に成立した安保法の一つである改正PKO協力法により、任務として定められれば、現場指揮官が駆けつけ警護の可否を判断できるようになる。日本政府は15年現在、アフリカ南スーダンのPKO国連平和維持活動に陸上自衛隊を派遣している。当初は、16年5月の部隊交代に合わせて、実施計画を閣議決定し、駆けつけ警護を任務として追加するとしていたが、夏の参院選以降に先送りされることになった。任務実施について反対意見が根強くあるため、世論の注目による参院選への影響を避けることが狙いとみられる。

(金谷俊秀 ライター/2015年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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