職業軍人の経歴をもたない者。日本国憲法で新たにつくられた語でciviliansの訳語である。憲法第66条2項は「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」と規定している。この規定はもともと原案にはなかったが、審議の過程で、連合国最高司令部が極東委員会の意向に基づいて追加挿入を要望してきたため、貴族院で修正追加されたものである。この文民条項は、平和主義の実現を確保し、過去の軍国主義的支配の復活を防止する見地から設けられたものであるとされている。文民の意味については説が分かれているが、職業軍人の経歴をもたない者とするのが通説である。ほかに、軍人でない者をいう、したがって、軍人であった者も軍人を辞めたときから文民となるとする説、経歴、現在の地位いかんを問わず、強い軍国主義思想の持ち主でない者とする説がある。前説によれば、憲法第9条は軍隊の存在を否認しているから現役の軍人は存在しえず、憲法のこの規定は無意味なものとなってしまう。また、文民とは、経歴または資格についての観念であるから、これを思想に関するものとする後説は妥当ではなかろう。この規定は、1954年(昭和29)の第一次鳩山(はとやま)一郎内閣、55年の第二次鳩山内閣の成立にあたって、元海軍大将野村吉三郎(きちさぶろう)が防衛庁長官(現在の防衛大臣にあたる)として入閣候補にあがった際に問題となったことがある。
[小松 進]
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…職業軍人の制度は一般に近代国家が成立し,各国で常備軍が設けられるようになった時期以降に発生したものであるが,日本では軍隊は天皇の皇軍であるとして軍人を職業とみる考えは忌避されていたため,第2次大戦後になって,とくに国務大臣の資格要件をめぐって職業軍人という言葉が注目されるようになった。すなわち日本国憲法において国務大臣は文民でなければならないと規定し,文民とはかつて職業軍人でなかった者とされたからである。しかし,この解釈も現在では文民をいちじるしく軍国主義的な思想をもたない者としているため,大臣任命に関し,職業軍人という規定はほとんど有名無実となったといえよう。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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