翻訳|phrenology
頭蓋の外形をみればその人の性格や精神的特性がわかるという学説で,19世紀前半の欧米で大いに流行した。創始者はドイツで生まれウィーンで開業していた医師F.J.ガルで,彼はイタリアの解剖学者モルガーニの影響下に,幼児や成人の正常脳,各種の病気の人の脳,天才人の脳,動物の脳などを比較研究し,脳内にさまざまな〈器官〉を発見し,これにもとづいて独特の〈器官学Organologie〉を打ち立てた。この理論の概略は,(1)脳は精神の器官であり,(2)精神はそれぞれ独立した機能に分かれ,(3)これらの機能は脳の皮質に座をもち,(4)頭蓋骨の形と脳皮質の形との相関はきわめて高く,(5)したがって,頭蓋骨の輪郭と精神機能の特性との間には密接な対応がある,の5項目に尽くされる。この学説は,脳の異なる部位が異なる機能を持つことを主張した限りで,19世紀後半の実証的な脳局在論に先駆するものとみなされるが,〈良心〉や〈愛〉や〈精神〉まで頭蓋の凹凸から判断するというガル一流の主張は,キリスト教に反するとして当時のオーストリア政府から禁圧され,このため彼はウィーンを去ってパリに移り,開業と研究を続けた。
彼の説を修正して欧米に広めたのは弟子シュプルツハイムJ.C.Spurzheim(1776-1832)で,師とともに《神経系一般,とりわけ脳の解剖学と生理学》全4巻(1810-19)を刊行したが,これを1815年に〈phrenology〉と名づけてイギリスに紹介したのはフォースターT.I.M.Forsterで,シュプルツハイムも以後この名称を使ったという。骨相学はその通俗的おもしろさから一般人の間でも人気を博したが,いかがわしい利用法がたたって名誉を失墜し,しだいに忘れられていった。なお〈phrenology〉という語はギリシア語のphrēn(横隔膜)とlogos(学)の合成にもとづく語で,かつて横隔膜に精神が宿ると考えられたところから,〈精神の学〉を意味するが,ガルの学説には日本語の〈骨相学〉のほうがはるかにふさわしい。
執筆者:宮本 忠雄
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頭骨の形状から、その人の性格その他の心的特性を推定できるという考え。脳は心の器官であるという考えは古くからあったが、オーストリアの解剖学者フランツ・ジョセフ・ガルFranz Joseph Gall(1758―1828)は、人間の心的特性はそれぞれ独立した機能に分けることができ、それらは脳の各部位に定位していると考えた。大脳のそれぞれの部位の発達の程度がそこの心的機能の働きの程度を示しており、大脳を包む頭骨の形状によってその下の脳の部位の発達状況を知ることができ、したがって心的特性を推定できるとした(1796)。ドイツのシュプルツハイムJohann Casper Spurzheim(1776―1832)はこれを骨相学と名づけた。両人は協力して研究を進め、神経系の生理と解剖に関する本『Anatomie et physiologie du système nerveux en général et du cerveau en particulier』全4巻(1810~20)を著し、そのなかで心的機能を35に分け、それらが大脳表面の各部位に定位されることを示した。しかし、オーストリア政府によりその普及が禁止されたため、両人はフランスやイギリスなどを講演して回った。
骨相学は有識者の支持を得、各国に協会がつくられ専門の雑誌も発行され、イギリスでは『Phrenological Journal』が発行され1847年まで続いた。しかし、骨相学は真に科学的な根拠を欠くため、30年ほどの隆盛の時期を経たのちにその運動は消滅した。ただ、ガルの考えは、その後の大脳機能局在説の先駆をなすものといわれている。
[大谷宗司]
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…そうした傾向は近世に入ってさらに促進され,多くの予言者,占星術師,神秘家が登場するが,なかでも16世紀にシャルル9世の侍医をつとめたノストラダムスは有名である。 近世以降にも,ラーファター,F.J.ガルなどが登場し,人相学,骨相学はさらなる発展を示すわけであるが,それは同時に占いから宗教的側面が失われ,世俗化・遊戯化していくプロセスとも言えよう。だが,ホロスコープやタロットによる占い,筆跡判断などが現在でも周期的に流行を繰り返していることからみても,占いには人間の精神の働きと結びつく何かが隠されているのではないかと思われる。…
…07年パリに移り,解剖学者シュプルツハイムJohann Christian Spurzheim(1776‐1832)と連名で主著《神経系,とくに脳の解剖学と生理学》(1810‐19)を刊行した。シュプルツハイムは頭蓋の骨相によって人の善悪・賢愚を判定できる〈骨相学Phrenologie〉と銘打って宣伝,一般大衆の注目を浴び,欧米各地に協会が設立された。学界も賛否両論に分かれたが,ガルの死後〈骨相学〉は弟子により愚劣化したため,ガル本人まで汚名を着せられ,脳神経に関する業績も過小評価されるに至った。…
…もっとも,I.カントは《実用的見地における人間学》の中で観相学的な性格論を肯定しながらも学問たりえないとし,ポルタやラーファターの説を否定している。 19世紀初めには医師F.J.ガルによる骨相学が現れた。彼は脳に気質や能力に対応する27個の〈器官〉を定め,それらは脳の表面に盛り上がっていて頭蓋骨を隆起させるから,頭をよく観察すれば気質や能力の発達程度がわかると考えた。…
※「骨相学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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