日本大百科全書(ニッポニカ) 「高橋悠治」の意味・わかりやすい解説
高橋悠治
たかはしゆうじ
(1938― )
作曲家、ピアノ奏者。東京生まれ。1958年(昭和33)桐朋(とうほう)学園短期大学を中退。柴田南雄(しばたみなお)、小倉朗(ろう)(1916―90)に師事。電子音と12楽器のための『フォノジェーヌ』(1962)、テープと器楽アンサンブルのための『冥界(めいかい)のへそ』(1963)などの初期作品を経て、63年から66年にかけてヨーロッパに滞在してクセナキスに師事。そのころに作曲された七つの楽器のための『クロマモルフⅠ』(1964)には集合論の方法が適用されている。66~72年アメリカに滞在し、作曲家、ピアニストとして活動。当時の作品であるピアノのための『メタステーシス』(1968)は推計学的方法で、オーケストラのための『オルフィカ』(1969)はコンピュータの演算によって書かれ、コンピュータによる作曲プログラムが高橋の作曲方法を特徴づけるところとなる。
1970年代以降は、オーケストラを社会の組織に見立てた『非楽之楽(ひがくのがく)――オーケストラの矛盾』(1974)、反戦歌をもとにした『この歌をきみたちに』(1976)など、政治的、社会的メッセージをもつ作品のほか、朗読されるテキストに中国や日本の古代のことばを使ったピアノ曲『メアンデル』(1973)、古代楽器の瑟(しつ)を使った『残絲曲(ざんしのきょく)』(1988)など、民衆詩やアジアの民族楽器を使った作品を発表。体制の外にある民衆の声や音に可能性をみいだす創作活動を展開する。著書に『ことばをもって音をたちきれ』(1974)、『たたかう音楽』(1978)、訳書にクセナキス『音楽と建築』(1975)などがある。
[楢崎洋子]
『『たたかう音楽』(1978・晶文社)』▽『『水牛楽団のできるまで』(1981・白水社)』▽『『ことばをもって音をたちきれ』(1985・晶文社)』▽『『音楽のおしえ』(1986・晶文社)』▽『『カフカ/夜の時間――メモ・ランダム』(1989・晶文社)』▽『谷川俊太郎著『理想的な朝の様子――続 谷川俊太郎の33の質問』(1986・リブロポート)』▽『水牛通信編集委員会著『水牛通信1978~1987』(1987・リブロポート)』▽『日本芸術文化振興会、国立劇場調査養成部芸能調査室監修・編『現代の日本音楽第4集 高橋悠治作品』(1999・春秋社)』▽『オリヴィエ・ルヴォ=ダロン著、高橋悠治訳『クセナキスのポリトープ』(1978・朝日出版社)』▽『マルク・ブルデル著、高橋悠治他訳『エリック・サティ』(1984・リブロポート)』▽『ホセ・マセダ著、高橋悠治編訳『ドローンとメロディー――東南アジアの音楽思想』(1989・新宿書房)』