推理作家。本名誠一。青森市生まれ。京都帝国大学工学部卒業。中島飛行機に勤務。第二次世界大戦後の1948年(昭和23)、処女長編『刺青(しせい)殺人事件』が江戸川乱歩の推奨で刊行され出世作となる。これは、本来密室がないはずの日本家屋内の密室殺人に新機軸を打ち出したもので、謎(なぞ)の構成と心理的錯覚ともいうべきトリックに独創性があり、日本の推理小説を代表する名編の一つである。翌年、意外な犯人のトリックに創意をみせた第二作『能面殺人事件』が探偵作家クラブ賞(現日本推理作家協会賞)を受賞、本格推理小説の第一人者としての地位を確立する。『成吉思汗(ジンギスカン)の秘密』(1958)は明治、大正期に論争の種になった成吉思汗=源義経(よしつね)説の賛否両論をつぶさに検討し、それに安楽椅子探偵の推理を加えたもので、論理の遊戯性に説得力がある歴史ミステリーである。また戦後混乱期の金融犯罪として著名な光クラブ事件をモデルにした『白昼の死角』(1960)は現在の経済ミステリーに先鞭(せんべん)をつけた作品であり、日本では数少ない法廷小説『破戒裁判』(1961)は、作品の99%が法廷場面だけという力作である。70年代に入ると、作者は「墨野隴人(すみのろうじん)シリーズ」を開始した。この名前はいうまでもなくバロネス・オルツィの連作ミステリー『隅の老人』のもじりであるが、その3作目『大東京四谷怪談』(1976)は現代の怪談と本格ミステリーの合理性を両立させようとした試み。作者が創造した神津(かみづ)恭介は、日本の本格推理小説を代表する名探偵の一人である。
[厚木 淳]
『『高木彬光長編推理小説全集』16巻・別巻1(1972~74・光文社)』▽『『高木彬光名探偵全集』全12冊(1975~79・立風書房)』▽『『刺青殺人事件』(光文社文庫)』▽『『能面殺人事件』(双葉文庫)』▽『『成吉思汗の秘密』『白昼の死角』『大東京四谷怪談』(光文社文庫)』▽『有村智賀志著『ミステリーの魔術師 高木彬光・人と作品』(1990・北の街社)』
昭和・平成期の推理作家
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
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