精選版 日本国語大辞典 「鳥料理」の意味・読み・例文・類語
とり‐りょうり‥レウリ【鳥料理】
- 〘 名詞 〙 鳥肉を材料とした料理。
- [初出の実例]「鳥料理献立之事」(出典:当流節用料理大全(1714))
鳥肉を主材料とする料理。食用となる鳥には家禽(かきん)と野鳥とがあり、前者にはニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ハト、ウズラなど、後者にはカモ、キジ、ヤマドリ、スズメ、シギなどがある。なお、日本では野鳥の捕獲が、狩猟法により禁止あるいは制限されているので注意が必要である。
[河野友美・大滝 緑]
鳥肉利用の歴史は非常に古いと考えられる。鳥類は人類の発生よりはるか以前に存在し、魚貝類とともにもっともとらえやすい重要なタンパク源であったと思われる。新大陸アメリカに移住した清教徒(ピューリタン)たちは、体が大きく逃げ足の遅いシチメンチョウをとらえて主要な食料としていたが、こうした事例は人類の祖先の同様な行動を思わせる。収穫祭において、アメリカでとくにシチメンチョウを重視するのは、それが生命の恩人的存在であることによる。『旧約聖書』の「出エジプト記」には、モーセに率いられてエジプトを脱出したイスラエルの人々が荒れ地で飢えていたとき、神はウズラの大群を与えてこれを救ったと記されている。またローマ時代には、市民の食膳(しょくぜん)にクロヅル、ニワトリ、クジャク、ガチョウなどの料理が供されていたという。家禽は野生の鳥を飼いならしたものであるが、もっとも古い歴史をもつのはガチョウといわれる。エジプトでは紀元前2800年ごろすでに肉用として飼育され、ヨーロッパでも前388年ローマで飼育されていたという記録が残されている。
日本では、古くから野生のキジが食用とされ、奈良時代には鳥肉中最高のものとされていた。干し肉や塩漬けのほか鱠(なます)にしても用いられていた。しかしニワトリは肉も卵も、宮中では食用を禁じられていた。ニワトリは闘鶏用あるいは時を告げる鳥として飼われていたのであり、また神聖視されたこともあって、鶏肉(けいにく)が料理に用いられるようになるのは江戸時代以降のことである。江戸時代には将軍家をはじめ各大名が鷹狩(たかがり)を好み、とくにツルは最高の獲物とされた。正月には将軍家から宮中へツルの献上があり、その料理にも「鶴(つる)の包丁」と称する秘伝が各流派にあった。ガンの肉も賞味され、将軍家は「初雁(はつかり)」を宮中に献上した。『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』には「鶴・鵠(くぐい)(白鳥)に次いで雁(がん)を賞す」とある。
[河野友美・大滝 緑]
鳥料理としてもっとも一般的なものは鶏肉料理である。飼育方法が進歩し、大量に安価に供給されているためである。鶏肉料理としては和洋ともに幅広いが、日本ではその肉の淡泊さが口にあうためか、畜肉より古くからかなり多く利用されてきた。代表的なものとしては、和風では、竜田揚げ、焼き鳥、つくね、筑前(ちくぜん)煮、博多(はかた)水炊(た)きなどをはじめ、鍋(なべ)料理や茶碗(ちゃわん)蒸し、煮しめ、親子丼(どんぶり)、チキンライスなどにも幅広く利用されている。洋風料理では、ガランティン、ブロシェット、クネル、ロースト、タンドリチキン、フライ、カレー、中国料理では白切鶏(パイチエチー)、から揚げ、衣揚げ、丸揚げ、蒸し鳥、煮込みなどがある。
とくに、鶏肉のなかでも「ささみ」とよばれる部分は、脂肪分がほとんどないため、脂質異常症の人にもよく用いられる。しかし、脂肪が少ないとこくがないため、さっと湯通しした程度の霜降りにして、わさびじょうゆで食べるなど、調理法はかなり限定される。
世界的によくつくられるのは鶏を蒸し焼きにするローストチキンで、鶏肉全体、あるいはもも肉などが用いられる。
[河野友美・大滝 緑]
鳥類は、それぞれ肉質に差がある。同じ鶏肉でも、部位により、脂肪分や味に差があり、また若鳥や老鶏でも味が異なるうえ、肉用種、肉卵兼用種、卵用種でも大きく味が異なる。家禽では飼育方法による差が大きく、また野生種では捕獲期による差も大きい。このような素材の味の違いにより、調理法に変化をつけることが望ましい。もっともよく食べられている鶏肉では、短期に肥育したものは味が淡泊であるため、油を使用して揚げたり、水分を減らすためにじっくり焼いたりすると味のよい料理になる。
[河野友美・大滝 緑]
鶏肉以外の鳥類を用いた鳥料理もいろいろある。欧米で祝い事に用いられるシチメンチョウは大味であるが、肉量が多く、また、清教徒の生命を支えたことなどからの意味もあって、よく使用される。代表的なものは、全体を焼いたローストターキーで、身を薄くそぎ、ソース類を添えて食べる。脂肪分が少なく、味は非常に淡泊である。このほか、ブレゼ(蒸し煮)、クリーム煮などにされる。
ウズラは、肉部分は少ないが、骨まで食べることができ、味も濃厚である。肉も骨もともによくたたいて団子にし、汁物にしたり、揚げたりする。また、みりんじょうゆで焼き鳥風に調理することもある。洋風では蒸し焼き、衣焼き、中国風ではスープ、蒸し物、丸揚げなどにされる。
カモも広く料理にされる鳥で、日本でも江戸時代から鴨場(かもば)などをつくり、とらえて調理してきた。カモは各国とも高級料理として取り扱われ、日本ではかも鍋、かも汁、かも雑煮などが、欧米ではカモのローストがよくつくられる。
カモを飼いならしたのがアヒルで、フランスや中国ではアヒルの料理が多い。とくに中国のアヒルの代表的な料理として烤鴨子(カオヤーツ)があり、よくあぶった皮がおいしいとされている。洋風料理ではおもにシチューやローストに用いる。
ガチョウもヨーロッパでは重要な鳥料理の材料で、肥育したガチョウの肝はフォアグラといって喜ばれている。パイ、テリーヌ、ソーセージなどにつくられるが、なかでもパテ・ド・フォアグラが有名である。
そのほか、キジは日本でも古くから食べられてきた鳥で、和風ではきじ飯、丸蒸し、みそ漬けなどの料理がある。ハトは日本ではほとんど料理にしないが、欧米では家禽の一種として食用バトが飼育され、料理もロースト、蒸し焼き、ソテーなどにして食べられる。ツグミはかつて日本で美味とされたが、いまは禁鳥で食べることはできない。スズメは焼き鳥として、骨ごとみりんじょうゆでつけ焼きにして食べる。特有なうま味と歯ざわりがある。とくに寒スズメは味がよいとされている。ヤマドリはキジに似ていて、キジとほとんど似た食べ方である。近年は、いままであまり食べていなかったホロホロチョウなども家禽として飼育されている。鶏肉にしても、一代雑種の研究が進み、新しい品種ができ、味も変化しつつある。
[河野友美・大滝 緑]
現在は、かしわということばはほとんど使われていないが、もともとは鶏肉をかしわとよぶことが多かった。これは、古く中国から移入された黄鶏(きどり)がかしわとよばれ、一時、ニワトリの代名詞のように使われたからである。黄鶏は早くから関西のニワトリの代表種となったが、やがて関東にも入り、ほとんど全国に行き渡った。羽毛が柏(かしわ)の色に似ていることから、かしわと呼んだらしい。
[河野友美・大滝 緑]
鳥類の肉を主材料とする料理。現在の日本では狩猟法によって野鳥の捕獲が制限され,ふつう食用とされるのは,家禽(かきん)では鶏,アイガモ,アヒル,シチメンチョウ,ウズラなど,野鳥ではキジ,ヤマドリ,コジュケイ,カモ類,シギ類,スズメなどで,鳥料理の主体は鶏肉を使うものとなっている。鶏肉の和風料理としては,水炊き,すき焼などのなべ料理のほか,焼鳥,とりわさ,いり鳥,つくねなどにする。焼鳥は適宜に切った肉を竹串にさすなどして,たれをつけ,あるいは塩を振って直火(じかび)で焼く。とりわさは,熱湯をかけて霜降りにしたささみをそぎ身につくり,ゆがいて2cm程度に切ったミツバを加えて,ワサビじょうゆであえ,もみノリを振る。いり鳥はそぎ身にした肉とゴボウのささがきを油でいため,しょうゆとみりんでそれを煮つめ,サンショウやトウガラシの粉を振る。つくねは肉をたたいて丸めたもので,焼鳥,なべ物などに用いる。カモやアイガモは焼鳥,じぶ煮,かもロースなどのほか,そば,うどん,雑煮などの具にする。じぶ煮は金沢地方の郷土料理として知られ,かもロースは琵琶湖周辺で多く行われる。キジ,ヤマドリなどではお狩場焼が知られる。猟場で始めたための名といい,ネギやトウガラシを加えたたれに肉を浸し,鉄板の上で焼きながら食べる。
西洋料理でも鳥料理の種類は多い。代表的なのはローストで,鶏,カモ,シチメンチョウなどを丸焼きにする。一般的な鶏肉の料理としては,カツレツやフライドチキンなどの揚物,ソテー,グラタン,クリーム煮,ブドウ酒煮,パイ,サラダなどがある。野鳥の料理ではウズラ,カモ,キジ,ツグミなどのほか,ライチョウなどを用いるところもある。中国料理でも種類が多く,とくに白切鶏(パイチエジー)などの蒸煮,蒸して細切りにしたものを辛みのきいたゴマだれであえる棒棒鶏(パンパンジー)やペキンダックが知られる。
執筆者:橋本 寿子
日本人がおおっぴらに鶏を食べるようになったのは,近世に入ってからのことで,それ以前の鳥料理はすべて野鳥を材料としていた。鶏は時刻を告げるものとしてたいせつにされ,日本人の肉食に重大な影響を与えた675年(天武4)4月の天武天皇の詔にも,牛,馬,犬,猿とともに鶏の食用が禁じられている。その後,獣肉食忌避が拡大する中で,美味な食物の意味で魚鳥は〈美物(びぶつ)〉と呼ばれ,さらに食味のうえで魚より濃密な味わいをもつ鳥は,美物中の美物として認識された。室町時代には〈美物の上下〉ということばがあり,魚鳥それぞれに尊卑の格とでもいった位づけがなされ,鳥ではキジが最も高貴なものとされ,とくに鷹狩でとったキジは〈鷹の鳥〉と呼んで最高のごちそうとされた。それについで珍重されたのはハクチョウで,以下ガン,カモなどとされたようだが,鷹の鳥やハクチョウの料理を供された客ははしをつける前に,そのもてなしの手厚さに謝意を表するものともされていた。《食物服用之巻》という本には〈食はざる先に誉むること仕付也。食ひ候てのち誉め候は,あぢはひを誉めたるもの也〉とあって,味をほめるのは失礼で,もてなしの志を感謝するのが正しいほめ方だとされているのである。室町末期ごろから前記の序列に変動が生じたらしく,《庖丁聞書》はツル,キジ,ガンを〈三鳥(さんちよう)〉と呼び,以後武家社会ではツルがキジの上位にランクされるようになった。室町末期以後の南蛮人の渡来は日本人の食生活にも大きな衝撃を与えた。そして1643年(寛永20),千年の呪縛(じゆばく)を破って初めて鶏を料理の素材として記載した《料理物語》が刊行され,鶏を丸のまま,ダイコンと煮た料理を〈南蛮料理〉と呼んでいるのである。江戸時代,武家はツルを最も重んじたが,庶民はカモをこよなく愛好した。〈鴨〉や〈鴨の味〉の語が無上の快楽や幸運を意味するようになったのは,その反映といえるだろう。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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