麦角(読み)バッカク(その他表記)ergot

翻訳|ergot

デジタル大辞泉 「麦角」の意味・読み・例文・類語

ばっ‐かく〔バク‐〕【麦角】

麦角菌が麦類の穂に寄生してつくる菌核。長さ約1~3センチのつの状で表面紫黒色アルカロイドを含み有毒。陣痛促進・子宮止血剤に使用

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精選版 日本国語大辞典 「麦角」の意味・読み・例文・類語

ばっ‐かくバク‥【麦角】

  1. 〘 名詞 〙 ライムギオオムギなど、イネ科植物の穂に麦角菌が寄生してできる菌体物質。リゼルギン酸およびその誘導体からなる麦角アルカロイドを含み、子宮収縮作用、分娩促進(陣痛促進)作用、子宮止血作用などがあり、古くから医薬に用いられている。
    1. [初出の実例]「町の薬局に行って麦角を買い」(出典:硝酸銀(1966)〈藤枝静男〉二)

ばく‐かく【麦角】

  1. 〘 名詞 〙ばっかく(麦角)

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改訂新版 世界大百科事典 「麦角」の意味・わかりやすい解説

麦角 (ばっかく)
ergot

コムギ,ライムギ,ペレニアルライグラスダリスグラスカモジグサなど多くのイネ科植物の穂の部分に突出している固い舌状の褐色組織。麦角は菌核の一つで,バッカクキン(麦角菌)Claviceps purpureaなどクラビケプス属の子囊菌が寄生して小穂の中に菌糸がまんえんすると,子房の部分を肥大させて菌とともに白い軟質塊を形成する。これがしだいに堅く褐色になって菌核(長さ1~3cm,直径2~4cm)ができ上がる。菌核が肥大充実する前には外側に盛んに分生子を生じ,虫の媒介で新しい穂に発病を起こす。土中に落ちた菌核(麦角)からは発芽して子実体を生じ,子囊胞子が飛散して伝染源となる。多量の麦角を含む飼料家畜に与えると,嘔吐,痙攣(けいれん)などの中毒を起こす。ウシウマよりも弱い。
執筆者:

麦角はエルゴメトリンergometrine,エルゴタミンergotamine,エルゴトキシンergotoxineなどのアルカロイドを含む。これらは子宮とくに妊娠子宮を収縮させる作用がある。なかでもエルゴメトリンは他のものよりも作用が強く,速効性で,血圧上昇作用は弱く,交感神経遮断作用がないので,分娩第3期における子宮収縮剤として広く使われる。エルゴタミンおよびエルゴトキシンは子宮収縮作用のほかに末梢血管を収縮させる作用もあり,その結果,血圧の上昇が起こるので,子宮収縮の目的には適さないが,片頭痛に効果があるため,他の薬剤と配合してこの目的に多用される。またアルカロイドから誘導されるリゼルギン酸ジエチルアミド(LSD)はきわめて微量で幻覚を生じさせる作用があるため,精神科領域で大きく期待される薬物となった。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「麦角」の意味・わかりやすい解説

麦角【ばっかく】

コムギやライムギなど多くのイネ科植物の穂に寄生する麦角菌の菌核。主要成分はエルゴメトリン,エルゴタミンなどのアルカロイドで,麦角を多量に含む飼料を与えるとウシやウマは中毒を起こす。一方子宮収縮薬その他の薬剤としても利用される。またこのアルカロイドを構成するリゼルギン酸からリゼルギン酸ジエチルアミド(LSD)が部分合成される。
→関連項目生薬ライムギ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「麦角」の意味・わかりやすい解説

麦角
ばっかく
ergot

バッカクキンがイネ科の植物,特にライムギの穂に寄生して,かつお節形の菌核となったもの。長さ 3cm,幅 5mmぐらいになる。外面は紫色で毒性が強い。麦角を含有している麦粉を食べると中毒症状を呈する。特有の麦角アルカロイドは 12種 (エルゴバシン,エルゴトキシン,エルゴタミンの3群) が検出されている。このアルカロイドからサイケデリック剤のリゼルギン酸 (LSD) がつくられる。漢方では落穂前に採取して止血薬に用いるが,産科の領域でも平滑筋収縮を応用して陣痛促進や子宮収縮に用いている。クロロホルムで浸出してできる赤褐色のエキスを麦角エキスといい,古くから医用に供されている。

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栄養・生化学辞典 「麦角」の解説

麦角

 ライムギの穂に寄生する子嚢菌門核菌類ボタンタケ目バッカクキン属の菌[Claviceps purpurea]の菌核.種々の有害成分を作る.

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世界大百科事典(旧版)内の麦角の言及

【LSD】より

麦につくカビの一種麦角(ばつかく)から分離された精神異常発現物質。リゼルグ酸ジエチルアミドのドイツ語名d‐Lysergsäurediäthylamidの略。…

【漢方薬】より

…たとえば,ゲンノショウコ,ドクダミ等は広く日本の民間で用いられているが,使用法は漢方の場合とまったく異なるので通常,漢方薬には含めず,民間薬として区分する。また,ウワウルシ,ゲンチアナ,ジギタリス,麦角等は西洋医学では古くから用いられてきた生薬であるが,漢方薬ではない。要するに後述するような漢方医学の理論にのっとって用いられる生薬が漢方薬である。…

【子宮収縮薬】より

…分娩の誘発または産後の子宮収縮・止血のために,子宮筋を収縮させる目的で用いられる薬物。脳下垂体後葉ホルモンと麦角アルカロイド製剤が用いられるが,最近になってプロスタグランジンも用いられるようになった。脳下垂体後葉ホルモンのうちオキシトシンは,9個のアミノ酸からなるペプチドで,子宮収縮作用が強く(似た構造をもつバソプレシンは血圧上昇作用および抗利尿作用が強い),陣痛の弱いときに分娩促進薬として繁用される。…

※「麦角」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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