ヤシャビシャク(英語表記)Ribes ambiguum Maxim.

改訂新版 世界大百科事典 「ヤシャビシャク」の意味・わかりやすい解説

ヤシャビシャク
Ribes ambiguum Maxim.

深山樹上に生えるユキノシタ科の落葉小低木。スグリ属Ribesの中で,樹上生のこの種類は特異な存在である。幹の下部はしばしば横にはい,年を経て大きくなったものでは高さ約1m,幹の直径約3cmにも達することがある。葉には軟毛を密生した柄があり,互生するが,多くは短枝状の枝の先に輪生状に出る。葉身は長さ・幅とも3~5cm,腎円形,基部は心形で,3~5浅裂し,縁に鈍鋸歯がある。5月ころ,短枝上の枝の先についた葉の葉腋(ようえき)から1~2個のウメの花に似た花を束生する。萼は皿状で,淡緑色子房と合着した部分には長腺毛が密生し,上部は5裂して花弁状となり,直径約1cm,裂片は楕円形,鈍頭,長さ約5mm。花弁は5枚,楕円形切頭で長さは萼裂片の約半分,萼筒の先につく。おしべは5本,花弁とほぼ同長で,花糸は太い。花柱は柱状で1本の子房は下位,1室で,2個の側膜胎座に多数の胚珠をつける。果実は液果となり,緑色球形で,腺毛を密生する。和名夜叉柄杓の意で,果実の形から名づけたという。本州,四国,九州の深山にまれに自生する。山草家によって盆栽にされることがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤシャビシャク」の意味・わかりやすい解説

ヤシャビシャク
やしゃびしゃく / 夜叉柄杓
[学] Ribes ambiguum Maxim.

ユキノシタ科(APG分類:スグリ科)の落葉小低木。幹の下部はしばしば横にはい、年を経て大きくなったものでは高さ約1メートル、幹の直径約3センチメートルにも達する。根は他の木の幹をはう。葉には軟毛を密生した柄があり、互生するが、多くは短枝状の枝の先に輪状に群生する。葉は腎円(じんえん)形で、長さ、幅とも3~5センチメートル、基部は心臓形で浅く3~5裂する。5月ころ、短枝状の枝の先についた葉の葉腋(ようえき)から1~2個の花を束生する。萼(がく)は皿状で淡緑白色、子房と合着した部分には長い腺毛(せんもう)が密生し、上部は5裂して花弁状となり、直径約1センチメートル。花弁は5枚、楕円(だえん)形切頭(せっとう)で、長さは萼裂片の約半分、萼筒の先につく。雄しべは5本。花柱は1本。子房は下位。果実は緑色球形の液果で、腺毛を密生する。名は、果実の形を夜叉(やしゃ)が持つ柄杓(ひしゃく)に見立てたもの。深山のブナなどの老木に着生する。本州、四国、九州にまれに自生する。

若林三千男 2020年5月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヤシャビシャク」の意味・わかりやすい解説

ヤシャビシャク(夜叉柄杓)
ヤシャビシャク
Ribes ambiguum

ユキノシタ科の落葉低木。テンノウメテンバイともいう。樹上着生植物で本州,四国,九州の深山の老樹上に生える。幹は高さ 10~40cmとなり,茎の下部は横に寝ることもある。葉は円形,基部は心臓形で浅く3~5裂し,軟毛が多い。葉柄にも軟毛が生える。雌雄異株で,4~5月頃,葉腋に1~3個の柄のある淡緑色の花をつける。萼は筒状に癒合し外面に腺毛が密生する。花弁5個は萼の半分の大きさで花後に球形の液果を生じ,表面に腺毛が密生していて熟しても緑色である。

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世界大百科事典(旧版)内のヤシャビシャクの言及

【テンノウメ】より

…テンノウメは,ウメに似た花を,天の星に見たてたものといわれる。ユキノシタ科のヤシャビシャクも,テンノウメとかテンバイとよばれることがある。【山中 二男】。…

※「ヤシャビシャク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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