X線検査(読み)えっくすせんけんさ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「X線検査」の意味・わかりやすい解説

X線検査
えっくすせんけんさ

波長の短い電磁波の一種であるX線の透過性を利用して生体内の情報を得る検査方法。次の三つの過程から成り立つ。(1)X線を発生させ生体に照射する。(2)生体内でX線が減弱吸収される。(3)生体を透過したX線を可視像に変換する。

 1895年ドイツの物理学者レントゲンがX線を発見した直後から医学への応用が試みられたが、X線発生装置、X線写真フィルム蛍光物質の改良に加え、X線蛍光増倍管、X線テレビジョン、X線断層撮影装置、X線連続撮影装置、さらにフラットパネルディテクタflat panel detector(FPD)などの開発により、現在ではX線を使用する検査が全医療行為の2割に達するほど重要な地位を占めるに至っている。1972年イギリスのハウンズフィールドらによって開発され、10年足らずで現代医学の一部を塗り変えたとされるコンピュータ断層撮影装置を加え、臨床医学における検査としての重要性は将来さらに増大するものと考えられる。

[大友 邦 2021年8月20日]

X線発生装置

X線は、電子の運動エネルギーと位置エネルギーが電磁放射線へ変換することによって生ずる、電離能のある電磁放射線と定義される。したがってX線を発生させるには、電子の供給源である陰極と、電子を衝突させてそのエネルギーをX線へ変換する焦点(陽極)とを備えたX線管、および焦点に衝突させる電子を加速する発生器の二つの要素が必要である。

 レントゲンによるX線管はガラス管内にガスを封入し、その電離で生じた陽イオンが陰極から電子を発生させ、これがガラス管壁に衝突してX線が発生する原理であった。この場合、ガラス管内のガス分圧を一定に保つことが困難であり、一定の強度のX線を発生させることができなかった。1913年にアメリカの実験物理学者クーリッジタングステンフィラメントを陰極として使用し、これに電流を通すことにより電子を発生させる真空X線管を開発し、ガス分圧の問題が解決された。また、鮮明なX線像を得るには、焦点を小さくして短時間に多くのX線を発生できることが望ましい。このためには、焦点をX線の発生する方向に対して鋭角に傾けて見かけの大きさを小さくし、しかも毎秒1万回程度回転させて熱を放散し、短時間に大量のX線を発生できるようにした回転陽極が開発された。さらに電子を加速する発生器は、変圧器によって高電位差を生み、整流回路によって一定の電圧を保つ機能を備えており、発生器にかける電圧で発生するX線の波長を調節して生体内での透過性を変えることができる。なお、X線管に流す電流の強さと発生するX線の量は比例している。

[大友 邦 2021年8月20日]

X線の生体内での減弱吸収

X線検査に利用される150キロボルト以下のエネルギーのX線は、生体内では光電効果とコンプトン散乱コンプトン効果)によって主として減弱吸収され、X線透過性のよい順に空気、脂肪、軟部組織および水と骨の四つに生体内の構成成分が分けられる。X線のエネルギーが低いときには、構成成分の原子番号の大小で光電効果による減弱吸収の差が大きく、X線のエネルギーが高くなると、光電効果よりコンプトン散乱による減弱吸収の割合が増加して構成成分ごとの減弱吸収の差は小さくなってくる。したがって、肋骨(ろっこつ)周辺の軟部組織の変化を見る必要のある胸部のX線像は、高エネルギーX線を使用して骨と軟部組織の間のコントラストを弱めたほうがよく、また軟部組織内の石灰化の有無を見るための乳房のX線像は、低エネルギーX線で軟部組織と石灰化部分のコントラストを大きくする必要がある。

[大友 邦 2021年8月20日]

透過X線の可視像への変換

X線を人間の視覚で見ることはできないので、生体内を透過してきたX線の不均等な分布を可視像に変換する必要があり、X線のエネルギーを可視領域の光に変換できるタングステン酸カルシウムCaWO4、硫化亜鉛ZnSや硫化カドミウムCdSなどの無機結晶や、光効率のよい希土類、ヨウ化セシウムCsIなどの蛍光物質が利用されてきた。最近では、X線をアモルファス・セレン半導体などを用いて直接電気信号に変換する方式も開発応用されている。

 X線を可視像に変換する方法は、従来は直接撮影(写真乳剤を塗ったフィルムを蛍光物質を含む増感紙で挟む。透過X線は増感紙で光子に変換されてフィルムを感光する)、X線間接撮影(透過X線をX線蛍光増倍管で明るい光学像に変換してカメラで撮影したり、映画として記録する)、X線透視(透過X線を蛍光物質で光学像に変換してX線テレビジョンで動画として観察する)に分類されていた。しかし最近では、フラットパネルディテクタ(FPD)などでデジタル電気信号に変換し、目的に応じて静止画像あるいは動画として観察する方法に置き換わりつつある。

 医療施設で臨床検査としてもっとも一般的なのは、静止画像として観察する方法で、検査部位により胸部単純撮影などとよばれている。単純撮影は手技が容易で短時間ででき、危険もなく、胸腹部や全身の骨の病変の有無を知るためにきわめて重要な検査である。検査目的となる生体内の器官と周囲のX線透過性に差をつけるため造影剤を使用する検査は、単純撮影と区別して造影検査とか特殊検査とよばれる。造影剤には、検査目的となる部位のX線透過性を減弱する陽性造影剤と、増強する陰性造影剤があり、前者には硫酸バリウムBaSO4や水溶性ヨード製剤が含まれ、後者には空気や二酸化炭素(炭酸ガス)などがある。造影剤の投与方法は検査目的によって異なり、胃や十二指腸に対しては経口的に、大腸では経肛門(こうもん)的に投与する。血管造影では目的の血管内に直接造影剤が注入されることが多く、脊髄(せきずい)の検査では脊柱管内のくも膜下腔(かくう)に注入される。

 造影検査として重要なものに消化管造影(透視)をはじめ、気管支造影、胆嚢(たんのう)造影、胆管および膵管(すいかん)造影、心大血管を含めた血管造影、排泄(はいせつ)性尿路造影、子宮卵管造影、脊髄造影などがある。造影検査では、透視下に臓器・病変・血流などの動態を観察し、詳細な検討には静止画像を併用するのが一般的である。閉塞(へいそく)性黄疸(おうだん)で拡張した胆管を穿刺(せんし)して造影剤を注入する際には、超音波検査を併用する。心大血管を含めた血管造影では造影剤が短時間に血管内を流れるようすを記録するために、連続撮影装置が使われている。これら造影検査は単純撮影と比較して被検者の肉体的経済的負担が大きく危険もあるので、必要な検査に限り検査に熟練した検者が行うことが望ましい。

 断層撮影とは、生体内のある断面の画像を得る方法の総称であり、従来は単純撮影を応用する方法も行われていたが、最近では、X線CT(computed tomography)、MRI(magnetic resonance imaging)、SPECT(スペクト)(single photon emission CT)、PET(positron emission tomography)などのコンピュータ断層撮影に置き換わっている。とくにX線CTは、1972年に開発されて以来10年足らずで頭部のX線検査の中心的存在となった。脳腫瘍(しゅよう)や脳卒中の診断にも有効であるが、とくに交通事故などによる頭部外傷時の頭蓋(とうがい)内血腫の有無の検索には欠くことができない。頭部以外の領域でもその有用性は認められ、超音波検査とともに被検者の負担が少ない検査として躯幹(くかん)部の画像診断の主力となっている。X線CTにも、陽性造影剤である水溶性ヨード製剤を末梢(まっしょう)静脈から注入する方法が併用されることが多い。

[大友 邦 2021年8月20日]

X線検査と被曝(ひばく)

原則として、少量のX線でも生体に対して影響を及ぼす可能性があるので、必要最小限のX線検査を行い、X線透視を使用する場合、透視時間をなるべく少なくする必要がある。生体のX線に対する感受性は器官によって異なり、生殖腺(せん)、骨髄、水晶体、甲状腺など感受性の高い部位には検査に支障のない範囲でX線が曝射されないことが望ましい。成人に比べて胎児の感受性は高く、とくに妊娠2~3か月の器官形成期にX線被曝することは、形態異常など重篤な後遺症を誘発する危険があるとされている。しかしこのような場合でも通常のX線検査で被曝する線量は、胎児に悪影響を与える最低の線量よりはるかに少ないことを知っておく必要がある。具体的には100ミリグレイ以下では胎児への悪影響はないとされているのに対して、1回の腹部単純撮影での胎児線量はその50分の1にあたる2ミリグレイ程度である。従来の10日ルール(妊娠可能な女性に対する下腹部のX線検査は、妊娠の可能性のない月経開始後10日以内に行われるべきである)は、考慮する必要がないとされている。ただしX線検査による被曝線量は厳密には一律ではないため、不安がある場合には専門家に相談することが望まれる。

[大友 邦 2021年8月20日]

『木村雄治著『画像診断装置学入門』(2007・コロナ社)』『岡部哲夫・小倉敏裕・石田隆行編『新・医用放射線科学講座 診療画像機器学』第2版(2016・医歯薬出版)』『齋藤秀敏・福士政広他著『放射線機器学2 放射線治療機器・核医学検査機器』改訂新版(2017・コロナ社)』『尾尻博也他著『系統看護学講座 別巻11 臨床放射線医学』第10版(2021・医学書院)』『舘野之男著『放射線と人間』(岩波新書)』

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