日本大百科全書(ニッポニカ) 「ALMA」の意味・わかりやすい解説
ALMA
あるま
南米・チリのアンデス山脈、標高5000メートルのアタカマ高地で日米欧が共同で建設し、運用を始めた最新の国際大型電波望遠鏡。ALMAはAtakama Large Mm-&-submm Arrayの頭文字をとったもの。アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計と訳される。口径12メートル(54基)、および口径7メートル(12基)の高精度パラボラ合計66基を、最大十数キロメートルの範囲に観測目的に応じて移動展開し、光ファイバーで連結して一つの電波望遠鏡として観測を行う、世界最大の開口合成型電波干渉計である。観測波長はバンド3(3ミリメートル帯)、バンド4(2ミリメートル帯)、バンド6(1ミリメートル帯)、バンド7(0.85ミリメートル帯)、バンド8(0.75ミリメートル帯)、バンド9(0.45ミリメートル帯)、バンド10(0.3ミリメートル帯)の7波長帯で、今後新たな波長域の受信機の追加も予定されている。ALMAは多数の高精度パラボラによる大集光力、長基線距離に及ぶパラボラ配置とともに、波長が1ミリメートルよりも短い「サブミリ波」での本格的観測が可能で、可視光でも届かなかった100分の1秒角という画期的な高空間分解能が達成できる。ALMAの観測対象は、太陽、惑星や衛星など太陽系諸天体から、恒星、星間物質、銀河、クエーサー、遠方の宇宙論的観測まで、きわめて広範にわたる。
建設総予算は約1000億円で、そのうちヨーロッパ諸国を中心に構成するESO(イーソ)(ヨーロッパ南天天文台)が37.5%、アメリカのNRAO(国立電波天文台、NSF)とカナダのNRCが37.5%、日本のNAOJ(国立天文台、自然科学研究機構)が25%を拠出して2002年に開始され、2013年から本格的な観測に入った。建設から運用までが世界レベルでの共同で行われた点で、ALMAは初めての「世界望遠鏡」になったといえる。設置場所としては、サブミリ波を観測するためには乾燥高地が適切で、世界中の候補地探査のすえ、標高5000メートルで年間降水量100ミリメートル以下という広大なアタカマ高地が最終的に選択された。日本は立案当初から米欧とともに計画の主要提案国だったが、政府の予算編成の事情から参加が2年遅れた。しかし参加後は米欧と事実上対等に建設に寄与し、野辺山(のべやま)電波天文台以来の経験を生かして高精度パラボラ、高感度受信機、分光相関器などを開発・建設した。また建設の間に日本(NAOJ)は台湾のASIAA(台湾中央研究院天文・天文物理研究所)、韓国のKASI(韓国天文宇宙科学研究院)とグループを組み、ヨーロッパALMA地域センター(ESO)、北米ALMA地域センター(アメリカ+カナダ)に対応する「東アジアALMA地域センター」を形成して、ALMAを支える三脚の一つとして運用にあたっている。
2013年の完成式以降、性能確認・調整のための試験観測と公募による観測が並行して進められてきた。ALMAの公募観測時間はオープンな国際公募と国際審査によって決められるが、その獲得競争は激烈で、すでに天文学のあらゆる分野に及んで膨大な成果・論文が発表されている。とくに宇宙論的遠方の銀河における激しい星生成の観測、驚くべき多数の宇宙重力レンズの発見、原始星を取り巻く原始惑星系円盤や、その中で生まれつつある惑星系の発見など、観測の威力で世界の天文学者を驚かせた。ALMAで得られた大量の観測データは、1年間の観測者優先期間の後すぐにネットで公開されて世界中の研究者による研究に自由に用いられており、ここでも多大の成果をあげている。
ALMAは、日米欧の3機関の支援のもと、チリの首都サンチアゴにおかれたALMA合同天文台によって直接運用されている。ALMAの基地で観光地でもあるサン・ペドロ・デ・アタカマから約50キロメートルの標高2900メートルサイトに大規模な運用支援施設OSF(Operation Support Facility)があり、一般の訪問者も見学できる(ただし事前連絡が必要)。そこから上の望遠鏡サイトは標高5000メートルの高地で酸素不足などの危険を伴うため、一般見学は許可されていない。
[海部宣男 2017年7月19日]