ICI(読み)あいしーあい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ICI」の意味・わかりやすい解説

ICI
あいしーあい

イギリスロンドンに本社を置いていた世界有数の総合化学会社、インペリアル・ケミカル・インダストリーズImperial Chemical Industries PLCの略称。2008年1月に買収され、アクゾノーベルの傘下に入った。

 1926年、イギリスの化学会社ブラナー・モンドBrunner, Mond & Co. Ltd.、ノーベルNobel Industries Ltd.、ユナイテッド・アルカリUnited Alkali Co. Ltd.、ブリティッシュ・ダイスタッフBritish Dyestuffs Corporation Ltd.の4社を統合し、資本金5680万ポンドで創設された。4社統合の意図は、その前年に設立されたドイツのイー・ゲー・ファルベン社や急成長を続けるアメリカのデュポン社に対抗して、世界市場で優位にたつためであった。ノーベル社の社長ハリー・マガウアンやブラナー・モンド社の社長アルフレッド・モンドなどが大同団結して海外のメーカーから市場を守る必要を説き、4社統合ICIの設立にこぎつけたのである。初代社長には、モンドが就任した。

 設立当初の主要製品分野は、肥料ソーダ染料火薬であった。その後、競争の回避を目的として、イー・ゲー・ファルベンやデュポンとの間に世界市場分割協定を締結した。その一環として、1929年、デュポンと特許交換協定を交わしたことは有名である。

 第二次世界大戦後、とくに1950年代以降、国際競争が激化し、経営は悪化した。1960年代に入ると社長ポール・チェンバーズのもとで、アンモニア石油化学合成繊維などの分野で大規模な設備投資を行い、多角化戦略を追求するとともに、海外市場にも積極的に進出した。しかし収益状態の改善にはかならずしもつながらなかった。社長エリック・カラードが展開した1970年代の経営戦略は、生産性の向上とファイン・ケミカル(少量、高純度の化学製品)への進出であった。とくに後者は、1971年アメリカのアトラス・ケミカルを買収したことがそのきっかけであった。

 1991年にハンソン・トラスト社からの買収提案を機に、より高収益の企業体質に転換することが迫られた。そのため、選択と集中の戦略がとられ、1993年には製薬、農業化学、種子、生物製品など生化学分野の事業を分離し、また同年、薬品のゼネカ・グループを分社した(これは1999年にスウェーデンのアストラ社と合併してアストラゼネカとなった)。1997年にはイギリス、オランダ系食品・日用品メーカーであるユニリーバのファイン・ケミカル部門を49億ポンドで買収して、付加価値の高い特殊化学製品の強化を図った。同時に、景気変動の影響を受けやすい基礎化学品部門を切り離した。その結果、基礎化学品部門の売上げに占める比率は1993年には56%であったが、1998年には25%に低下した。

 このように従来からの多角化戦略を見直して、1990年代には事業分野の整理統合を図り、株式価値重視の政策を追求するようになった。1999年時点のICIの事業は、特殊化学製品と塗料を柱としており、特殊化学製品部門を支えるのはユニリーバから買い取ったナショナル・スターチ・アンド・ケミカル社、クエスト社、ユニケマ社、クロスフィールド社の4社であった。ナショナル・スターチ・アンド・ケミカルは接着剤、特殊合成ポリマー、工業用デンプンなどを製造し、世界36か国に製造拠点をもち、クエストは香水や食用香料、ユニケマは天然油を原料とする化学製品、クロスフィールドは洗剤原料、触媒などを生産していた。塗料部門は傘下のICIペイント社が建築・装飾用塗料および飲料・食料用缶のコーティング材で世界屈指の生産量を誇っていた。1998年末の売上高は92億8600万ポンド、従業員数約5万8700人であった。しかし、その後の選択と集中の結果、2006年の売上高は48億ポンド、従業員数は2万9000人に縮小していた。売上げの50%がペイント部門、また従業員の87%が海外の人員であった。なお、日本には1976年(昭和51)に子会社ICIジャパンを創設し、日本エヌエスシー社、クエスト・インターナショナル・ジャパンなどの会社や研究施設を設立した。

 2007年6月、ICIはオランダのアクゾノーベルからの買収提案を受け、交渉の結果、80億ポンド(160億ドル)での売却が成立。ICIは2008年1月をもって、アクゾノーベルの傘下に入り、独立企業としての存続に終止符を打つことになった。吸収直後は会社扱いであったが、現在ではアクゾノーベルに完全に吸収されており、ICIの名称は消滅した。

[湯沢 威・上川孝夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ICI」の意味・わかりやすい解説

ICI
アイシーアイ

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