Menkes病

内科学 第10版 「Menkes病」の解説

Menkes病(微量元素欠乏症)

(2)Menkes病
 Menkes病は消化管からの銅の吸収障害があり,中枢神経結合織などの銅要求酵素に銅が供給されないために障害が生じる伴性劣性遺伝性疾患である.発症頻度は50000~100000人に1人で,典型的症状を呈する重症型Menkes病,軽症型Menkes病およびさらに軽症型のoccipital horn症候群がある.
 細胞内の銅輸送をつかさどるP-type ATPase(ATP7A)の障害により生じる疾患である.この遺伝子より産生される蛋白の異常により,腸管から血液中への銅の輪送,さらには各組織における銅要求酵素への銅の受け渡しが障害される.ATP7Aは正常ヒトでは小腸腎臓,肺,脳など肝細胞以外のほとんどすべての細胞で発現している.ATP7Aが欠損している患者細胞では銅が蓄積する.細胞内で銅が蓄積している部位はサイトソールであり,細胞小器官はむしろ銅欠乏になっており,細胞小器官にある銅酵素の活性は低下している.また,腸粘膜上皮細胞での銅吸収障害により,血液・脳組織をはじめとする体内は銅欠乏になる.しかし,腎臓では銅は尿細管に蓄積している.
 重症型(古典型)では,生後2~3カ月以降に症状がみられる.特徴的臨床症状としては,精神・運動発達遅滞,筋緊張低下,痙攣などの進行性・非可逆性の中枢神経障害,もろく折れやすい,kinky-steelyと表現されるねじれた,白色や茶色の毛髪,青白い皮膚とずんぐりとした頬と垂れ下がった顎,水平の眉などを特徴とする無表情な顔貌,脆弱性を伴い,蛇行迂曲する血管,易感染性,低体温などである.このうち,中枢神経障害は重篤で頸定も笑いもみられず,難治性痙攣が発症する.感染に罹患しやすく,肺炎膀胱憩室のため尿路感染も起こしやすい.
 軽症型では,2~3歳頃の幼児期に軽~中等度の発育遅滞や小脳症状にて気づかれる.皮膚は色白で弾性が強く関節過伸展を認める.尿路系の憩室があり尿路感染を反復する.軽度の骨病変,血管の蛇行や迂曲を認める.神経症状は軽~中等度の精神発達遅滞および痙攣を認める.
 occipital horn症候群は,頭部X線側面像によるoccipital exostosis(後頭骨下方に角状に突出するもの)などの骨病変,皮膚弾性過伸展,関節過伸展,鼠径ヘルニア,膀胱憩室などである.軽度の精神発達遅滞を伴うことが多く,筋力低下や筋萎縮をみる例もある.学童期から青春期に発見されることが多い. 治療は銅の補給である.経口および注腸での銅投与は効果がなく,皮下注または静注で銅を投与する.銅製剤としては,ヒスチジン銅が最も脳への移行がよいとされている.投与量は,銅として70~180 μg/kg/回を隔日または1~2回/週間隔で投与し,血清銅,セルロプラスミンを正常下限に維持することを目安とする.毛髪異常,あるいは全身状態の改善は可能で,軽症型には有効であるが,中枢神経症状の改善は期待できない.重症型の予後はきわめて不良であり,ほとんどの患児が3歳頃までに死亡する.[武田英二・山本浩範]

Menkes病(銅代謝異常症)

(2)Menkes病【⇨13-6-5)】
 Menkes病遺伝子は,X染色体長腕(Xq13.3)に座位し,細胞内銅輸送膜蛋白であるATP-7Aを誘導する.Wilson病遺伝子と相同性が高く,ATP-7Bと同様に細胞内銅輸送を司る.Wilson病が生体内銅過剰に対し,Menkes病は生体内銅欠乏となる.Menkes病はX連鎖劣性遺伝性であり,男児に発症する.
 臨床的に,重症型(古典型),軽症型,極軽症型に分類される.重症型は乳児期から進行性中枢神経障害,痙攣,意識障害,毛髪異常(ねじれ毛(kinky hair)など),低体温,骨変化など多彩な症状,血清セルロプラスミンや血清銅値低下,脳動脈の蛇行・迂曲,骨X線異常,膀胱憩室などをみる.[青木継稔]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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