家庭医学館 「MRSA肺炎」の解説
えむあーるえすえーたざいたいせいおうしょくぶどうきゅうきんはいえん【MRSA(多剤耐性黄色ブドウ球菌)肺炎】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌が感染しておこる肺炎です。以前はブドウ球菌による肺炎の治療にペニシリンを使っていましたが、そのうちペニシリンが効かないブドウ球菌(耐性ブドウ球菌)が現われてきたのです。
メチシリンは、最初に開発された耐性ブドウ球菌用の抗生物質ですが、MRSAは、メチシリンにも抵抗性を示すという意味で、こういう名がつきました。しかし、その本体は、各種の抗生物質にも生きのびる耐性をもった黄色ブドウ球菌(多剤耐性黄色ブドウ球菌)です。
MRSAは、ふつうの黄色ブドウ球菌に比べて毒力が低く、多種の抗生物質に耐性を示すようになるにつれて、さらに毒力が低下するようです。したがって、健康な人には、ほとんど問題となることはありません。
MRSAは鼻腔(びくう)、口腔(こうくう)にふつうにいるため、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)や治療のために抵抗力(免疫)の低下した患者さんのたんや、咽頭(いんとう)をぬぐった検査液から、しばしば、緑膿菌とともに見つかります。
MRSAが実際に感染して肺炎をおこす例は、菌が見つかった患者さんのうちでも、ごくわずかと報告されています。しかし、MRSAに効く抗生物質がかぎられるため、別の重病にかかり抵抗力が極端に落ちた人に感染すると、重症化して死に至ることもあります。
MRSA感染症としては、肺炎よりも、腸炎(ちょうえん)や手術後の傷口の感染が問題となることが多く、肺炎は、心臓血管外科などの手術後で人工呼吸器を使ったり、長期間、寝たきりでいる患者さんに多くみられる傾向があります。
[治療]
咽頭やたんの検査からMRSAが見つかっても、実際に肺炎などの感染症をおこし、治療を必要とすることは多くありません。
肺炎をおこした患者さんに対する治療としては、たんの細菌を培養した検査の結果を参考に、その菌に抗菌力のある抗生物質を使います。
ミノサイクリン製剤を使ったり、ホスホマイシン製剤とほかのセフェム系抗生物質を組み合わせて使ったりします。それでもよくならないときはバンコマイシン製剤を点滴します。
現在、バンコマイシン製剤に抵抗性を示すMRSAは、ほとんどありません。ただし、バンコマイシン製剤は腸から吸収されにくいため、MRSA腸炎の場合は内服でよいのですが、肺炎に対しては、内服しても効果がありません。
[予防]
予防の基本は、緑膿菌肺炎(この項目の緑膿菌肺炎)と同じです。たいせつなことは、MRSAは、医療従事者や介護者の手などを通して、保菌者からほかの患者さんにうつり、鼻腔や口腔にすみつきやすいということです。保菌者を訪問したり、介護などをしたりした後は、手を洗い、うがいをするよう心がけましょう。
また、患者さん自身も、うがいを励行して口内を清潔に保ったり、鼻腔や手指を消毒することがたいせつです。