翻訳|pharynx
脊椎動物では,消化管の前部で口腔と食道の中間にあり,少なくとも胚の時期にはその両側壁にいくつかの咽頭囊(内臓囊)が前後に並んで発生する部分。咽頭囊は消化管の内壁が側方へ向かってポケット状にくぼんだもので,魚類,両生類幼生および一部の両生類成体では,外界へ開通して鰓孔(さいこう)(えら穴)となり,その前後の壁に多数のえらを生ずる。その他の空気呼吸をする脊椎動物つまり有羊膜類では,咽頭囊は原則として外通せず,えらは発生せず,成長とともに退化消失するが,その付近の組織から種々のいわゆる鰓性器官が分化する。爬虫類・鳥類でもほぼ同様だが,哺乳類の咽頭は,鼻腔,口腔と喉頭の間にあって呼吸ならびに食物の通路として大切な十字路のような部分であり,ヒトでは,抗体をつくって生体を防御する扁桃などのリンパ組織が杯状に配置され(ワルダイエル扁桃輪),神経の分布が緻密(ちみつ)である。また種々の筋肉が協調して嚥下をつかさどる。咽頭は上咽頭,中咽頭,下咽頭の三つの部分に分けられる。
鼻腔に続く口蓋のレベルより上の部分を鼻咽腔あるいは上咽頭といい,中耳腔に通じる耳管の開口部がある。子どもの場合,ここにアデノイドがあり,アデノイドが増殖すると耳管を圧迫して狭窄をおこし,難聴の原因となる。また風邪などで鼻炎,扁桃炎に引き続き上咽頭炎をおこすと,炎症が耳管,中耳に波及して中耳炎をおこす。ここにできる腫瘍に上咽頭癌,肉腫などがあるが,中国南東岸一帯,台湾,香港,シンガポールの中国人に多い。
咽頭の第2の部分は口を開けると見える中咽頭であり,両側に扁桃がひかえ,風邪などの炎症でよく咽頭炎ならびに扁桃炎をおこす。咽頭炎には急性と慢性の別があり,急性咽頭炎では,発熱,咽頭痛,咳,痰などを訴え,口を開けると咽頭が赤く見える。慢性咽頭炎は,過度の飲酒,喫煙,炎症の慢性化などによっておこり,痛みを訴えることなく,むしろ咽頭異物感あるいは違和感に悩まされ,エヘンと咳払いをしたり,つねに痰がからんですっきりしない。癌恐怖症で医者を訪れる者が少なくないが,鑑別診断は困難ではない。口を開けて舌圧子で舌をおさえて見ると,咽頭の発赤はさほどひどくなく,むしろ粘膜がなめらかでなく,乾燥したり,痰の停滞しているのが見える。原因となる疾患,たとえば慢性鼻炎,副鼻腔炎などの除去に努め,タバコはやめる。慢性の場合,抗生物質は使わず,もっぱら吸入,うがいなどの局所治療に専念する。
最下部の下咽頭は喉頭ならびに食道入口部の上の部分で,炎症が慢性化しやすく,かつ大人の場合,舌根にある舌扁桃の増殖が加わって違和感がいっそうひどくなる。ここにも悪性の腫瘍ができやすく,喉頭の癌と区別しにくいことがある。下咽頭痛のほか,嚥下障害などを訴える。また魚骨などの異物のひっかかりやすい個所でもある。
最近少なくなったが咽頭結核もみられる。たいていは肺結核から二次的に感染したもので,咽頭痛,嚥下痛,微熱,のどの違和感,嚥下困難などを訴え,咽頭粘膜あるいは軟口蓋に粟粒(ぞくりゆう)状発疹あるいは潰瘍をみる。昔多かった咽頭梅毒はほとんどみられなくなった。
→のど
執筆者:中山 将太郎+田隅 本生
脊椎動物と同様に,口腔と食道の中間部を咽頭とよぶが,その発達の度合は動物群によっていろいろである。扁形動物門渦虫(かちゆう)綱のうち三岐腸類では,摂食時に咽頭を口外に出して食物を取り込むが,平常は口との間の消化管の薄壁で囲まれている。この型を複咽頭とよぶが,棒腸類では単に環状筋と放射状筋が発達しただけであって単咽頭とよぶ。また,扁形動物門吸虫綱では咽頭は球形にふくらみ,食物を吸い込むポンプとしてはたらくが,節足動物門蛛形(ちゆけい)綱でも機能的には同様で,吸胃とよばれる。袋形動物門は輪虫綱,腹毛綱,線虫綱など変化に富んだ動物群であるが,一般に咽頭がよく発達し,機械的消化の役を果たすが,とくに輪虫類では咀嚼(そしやく)板を備えている。環形動物門多毛綱でもよく発達した筋肉質の咽頭をもち,さらに大あごによって消化する。節足動物門では前述の蛛形綱を除けば咽頭の発達は著しくないが,昆虫綱では咽頭に唾腺(だせん)(唾液腺)が開口して,化学的消化を助ける。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
消化管の一部であるが、気道の一部にもなっている部分で、鼻腔(びくう)、口腔の後方にあって、まっすぐ下方は食道につながり、下前方は喉頭(こうとう)にも通じる。咽頭腔は鼻部、口部および喉頭部の3部に区分されるが、長さ約12センチメートルで、多少前後に圧平された円筒形状である。口を大きく開けると、口腔の後上方にアーチ形の粘膜ひだがみえる。このひだを口蓋咽頭弓(こうがいいんとうきゅう)とよび、この咽頭弓を境として後方が咽頭になる。口腔の突き当たりの粘膜壁が咽頭後壁である。咽頭鼻部は鼻腔の後方部分で、軟口蓋より上方になる。咽頭鼻部と鼻腔とは後鼻孔によって連絡している。咽頭鼻部の上方端は頭蓋底にあたり、咽頭円蓋とよんでいる。咽頭鼻部の外側壁では、下鼻甲介(かびこうかい)の高さのところに耳管(じかん)咽頭口があり、中耳と咽頭とを結ぶ管である耳管の開口部になる。あくびをするとか、唾液を飲み込む動作によって耳管が開き、中耳と咽頭とが連絡して、その瞬間に中耳の内圧が変化する。咽頭口部は軟口蓋から舌骨の高さまでをいい、咽頭喉頭部は舌骨から食道に移行する部分までをいう。食道に移行する部分の前方には喉頭の入口があり、喉頭の前壁から出ている喉頭蓋という蓋(ふた)によって、この入口はふさがれている。食物を飲み込むような嚥下(えんげ)運動がおこるときには、喉頭蓋が喉頭を閉じるように働く。この働きは反射的で、食物が咽頭後壁の粘膜を刺激することによっておこり、食物が喉頭に進入するのを防いでいる。
咽頭内壁は咽頭粘膜に覆われるが、この粘膜には粘液を分泌する咽頭腺が多数存在する。また咽頭側壁や後壁粘膜にはリンパ組織の隆起があり、咽頭扁桃(へんとう)とよぶ。これは幼児期には肥大しやすく、かなりの大きさになったものをアデノイドとよぶ。あまりアデノイドが著しいと、刺激を受けやすく、扁桃炎をしばしばおこす。咽頭口腔と口腔との境にある2枚の粘膜ひだの間には比較的大きな口蓋扁桃がある。これも炎症をおこしやすい。
咽頭周囲には、咽頭の働きに関係する咽頭筋群が発達しており、横紋筋線維からなっている。とくに咽頭後壁には、咽頭を後壁から包むように3種の筋層があり、咽頭後面の正中線から左右に向かって内上方から外下方に走り、上・中・下咽頭収縮筋に区別されるが、この3層の境は重なっている。このほかに、咽頭筋として茎突咽頭筋、耳管咽頭筋、口蓋咽頭筋などがある。咽頭筋は、食物を飲み込むときに、これを助けるように働くだけでなく、発声のときにも、声帯の運動を助けて発声を容易にするように働く。
嚥下運動がおこるとき、つまり食物などが咽頭粘膜に触れて反射的に咽頭筋の収縮がおこるときには、咽頭は上方に向かって引き上げられる。とくに茎突咽頭筋は咽頭側壁を上外側方に引き上げ、咽頭腔を拡張し、横径も増大する。同時に軟口蓋が咽頭後壁に密着して咽頭鼻部への通路を閉じ、舌根は前上方に移動するので、喉頭蓋が喉頭の入口を閉じる。食物は、拡張した咽頭から食道にまっすぐに送り込まれる。このとき、咽頭鼻部や喉頭への閉鎖が完全に行われないと、食物や液体が鼻腔や喉頭に入ることがある。咽頭筋は迷走神経、交感神経、舌咽神経などの支配を受けるから、迷走神経、舌咽神経などの傷害があると、発声障害とともに嚥下作用も円滑に行われなくなる。
[嶋井和世]
ヒトの場合と同様に、一般には口腔(こうこう)と食道の間にある膨大部をいう。動物群によってその形態や働きに違いがある。渦虫類の咽頭は咽頭鞘(しょう)という筋壁に包まれているが、摂食時には反転して口外に出て食物を包んで飲み込む。魚類では咽頭の左右にえらがあるので鰓腸(さいちょう)ともよぶ。高等脊椎(せきつい)動物でも、発生の途中で咽頭の両側壁に鰓裂を生じ、肺もこの部位から発生する。咽頭は鼻腔と気管との間にある部位でもあるから、呼吸道の一部を兼ねることとなる。
[川島誠一郎]
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…ただし軟口蓋の後部は上下に移動して鼻腔への通路を開いたり閉じたりすることができる。 次にのどと呼ばれている部分は咽頭pharynxと喉頭larynxに分けられる。咽頭は口から胃へ通ずる食物の道と鼻から気管に及ぶ息の道が交差している個所である。…
…咽喉頭ともいう。咽頭と喉頭を総称した名で,いわゆる〈のど〉といわれる部分。咽頭は鼻腔,口腔に連なる部分から,おおむね喉頭蓋のあるところまでを指し,喉頭は咽頭の下から気管までをいう。…
※「咽頭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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