日本大百科全書(ニッポニカ) 「さえずり」の意味・わかりやすい解説
さえずり
鳥が発する美しい鳴き声をいう。スズメ目に分類される小鳥類がよく出す。発声器官は気管支の基部にある鳴管(めいかん)である。さえずりは、おもに春から夏にかけての繁殖期によく出され、1年を通じて出される地鳴きと区別される。さえずるのは一般に雄で、そのさえずりには大別して二つの役割がある。一つは、縄張り(テリトリー)の防衛である。それぞれの雄は、さえずることによって、その周辺の一定地域内にほかの雄が入ってくるのを防ぎ、そこを独占する。この縄張りの防衛をめぐっては、隣り合う雄どうしがしばしば激しくさえずり合う。その際、それぞれの雄は、いくつかあるレパートリーのなかから同じタイプのものを選び出してさえずることが多い。もう一つの役割は、つがいの形成にかかわることである。雄は縄張り内でさえずることによって、自分の存在を雌に知らせ、そこに雌を引き付ける。種ごとに異なるさえずりは、同じ種の雄と雌が間違わずにつがいになるのに役だっている。
鳥のさえずりは、しばしば人間のことばに置き換えて聞くことができる。たとえば、ウグイスのさえずりは「法々華経(ほうほけきょう)」と聞こえるし、コノハズクの声は「仏法僧(ぶっぽうそう)」と聞くことができる。このように、さえずりを人間のことばに置き換えて聞くことを「聞きなす(聞きなし)」という。さえずりは、同じ種のものでも、地方によってすこしずつ、あるいはかなり異なっていることがある。日本の鳥では、アカハラ、ウグイス、ホオジロ、トラツグミなどにその好例をみいだすことができる。本州や九州のトラツグミは「ヒー、ヒョー」という声で鳴くが、奄美(あまみ)大島のトラツグミは「キュルイックー、キュルイックー」と鳴く。こうしたさえずりの地理変異にどのような意味と役割があるのかは、よくわかっていない。
[樋口広芳]