冷静さと情熱,理性と情念,合理と非合理,といった異質な要素の何らかの結合によって生み出された行為への一定の傾向性。エートスを,人間と社会の相互規定性をとらえる戦略概念として最初に用いたのはアリストテレスであり,社会認識の基軸として再びとらえたのがM.ウェーバーである。ウェーバーによれば,この行為性向は次の三つの性質をあわせもつ。(1)ギリシア語の〈習慣(エトス)〉に名称が由来していることからうかがえるように,エートスは,それにふさわしい行為を実践するなかで体得される〈習慣によって形作られた〉行為性向である。〈社会化〉によって人々に共有されるようになった行為パターンといってもよい。しかしある行為を機械的にいくら反覆してもエートスを作り出すことはできない(模倣・流行・しきたりへの盲従の場合)。(2)その行為性向は意識的に選択される必要がある。〈主体的選択に基づく〉行為性向がエートスである。(3)行為を選択する基準は何か。それは〈正しさ〉である。選択基準は,行為に外在する(行為の結果)か,内在する(行為に固有の価値)かのいずれかであるが,〈正しい〉行為とは,内在性の基準が選択され,目的達成の手段ではなしに行為それ自体が目的として行われるような行為のことである。行うことそれ自体が〈自己目的になった〉行為性向がエートスといえよう。外的な罰や報酬なしには存続しえない行為性向はエートスではない。エートスの窮極的支えは個人の内面にある。ウェーバーは価値合理wertrationalと目的合理zweckrationalという対比で,自己目的あるいは正しさの契機を強調し,社会学の伝統を形作った(近年の社会学では表出的行動expressive behaviorと用具的行動instrumental behaviorという対比がよく用いられる)。習慣の契機が強調されると,エートスは,〈学習された行為の統合形態〉という人類学における〈文化パターンcultural pattern〉の概念に生まれ変わる。選択性あるいは主観性の契機が強調されると,エートスは倫理学における倫理・道徳概念へと転生する。
執筆者:厚東 洋輔
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本来ギリシア語で「性格」を意味することばであるが、生まれつきの天性と後に身につけた習性との両面を含む。個人については、一時的な感情(パトス)や純粋な知能と区別されたひととなり、人柄をさし、社会的には、ある民族や集団の特徴をなす道徳、慣習、習俗などをさす。この意味で、倫理ないし倫理学にあたるドイツ語Ethikが生まれてきた。ただしエートスは、価値規範として自覚的に定立された当為(ゾルレン)ではなく、集団や社会層に共有されて無自覚的レベルで人々のひととなりを規制しているしきたり、またそれによってつくられた人柄をさし、集合的心性、精神構造、人間類型などのことばがその訳語として用いられている。
こういう意味を強調して、方法的概念としての学問のなかに取り込んだのは、マックス・ウェーバーであった。彼はエートスを倫理学説のレベルではなく、宗教、政治、経済などへ向かう社会的行為の動機づけのレベルで取り上げ、目的―手段連関や担い手の社会層と関係づけて、多くの社会学的な分析を行った。資本主義の「精神」とか世界宗教の経済「倫理」とかいうことばは、この意味でのエートスをさしている。のちにフライヤーは、没価値的なロゴス科学に対立させて、倫理的価値判断を与えるエートス科学という概念を考えたが、今日ではこの使い方は踏襲されてはいない。
[徳永 恂]
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…すなわち,道とは人倫を成立させる道理として,倫理とほぼ同義であり,それを体得している状態が徳であるが,道徳といえば,倫理とほぼ同義的に用いられながらも,徳という意味合いを強く含意する。道徳と倫理の両語とも,現今では近代ヨーロッパ語(たとえば英語のmorality,ethics,ドイツ語のMoralität,Sittlichkeit,Ethik,フランス語のmorale,éthique)の訳語としての意味が強いが,これらの語はたいていギリシア語のエトスethosないしはエートスēthos,あるいはラテン語のモレスmores(mosの複数形)に由来する。ēthosという語は,第1に,たいていは複数形のēthēで用いられて,住み慣れた場所,住い,故郷を意味し,第2に,同じくたいていは複数形で,集団の慣習や慣行を意味し,第3に,そういう慣習や慣行によって育成された個人の道徳意識,道徳的な心情や態度や性格,ないしは道徳性そのものを意味する。…
…社会現象は,関与する個々の人間の行為に還元されて〈説明〉される。しかもその際,行為はエートスとよばれる価値的態度と関係づけられ〈理解〉されねばならない。価値判断に関するいかなる絶対的なものも認めず,しかも,さまざまな〈価値〉と複雑に結びついている現実の歴史的・社会的現象を分析し理解する手続きとして,ウェーバーは厳密に純粋理論的に構成された概念(理念型)の設定とそれとのたえざる比較という方法を打ち立て,〈理解社会学〉を提唱した。…
…ドイツでは,W.M.ブントらがさまざまな社会,国家の特有の精神的特徴に注目し,民族心理学を提唱した。なお,これとは流れを異にするが,E.トレルチやM.ウェーバーによる宗教や実践倫理(エートス)の考察も,後世の社会意識の研究に大きな影響を与えるものとなった。 20世紀のアメリカでは,経験的方法の土台の上で心理学的傾向の強い研究が隆盛をみる。…
…すなわち,道とは人倫を成立させる道理として,倫理とほぼ同義であり,それを体得している状態が徳であるが,道徳といえば,倫理とほぼ同義的に用いられながらも,徳という意味合いを強く含意する。道徳と倫理の両語とも,現今では近代ヨーロッパ語(たとえば英語のmorality,ethics,ドイツ語のMoralität,Sittlichkeit,Ethik,フランス語のmorale,éthique)の訳語としての意味が強いが,これらの語はたいていギリシア語のエトスethosないしはエートスēthos,あるいはラテン語のモレスmores(mosの複数形)に由来する。ēthosという語は,第1に,たいていは複数形のēthēで用いられて,住み慣れた場所,住い,故郷を意味し,第2に,同じくたいていは複数形で,集団の慣習や慣行を意味し,第3に,そういう慣習や慣行によって育成された個人の道徳意識,道徳的な心情や態度や性格,ないしは道徳性そのものを意味する。…
…アメリカではT.パーソンズを介して影響が社会学のアメリカ的形態の形成に導かれていったが,その影響の流れと比較するとき,日本におけるウェーバー受容が,ウェーバーのこの論文に示された方法と精神のいっそう深い継承であったことが知られよう。 この論文の新しい問題提起は,ヨーロッパ近代文化の全体を貫通する基本的特徴,つまり近代の政治,経済,法,倫理,芸術,社会生活,宗教等のあらゆる文化領域を貫通しその特徴となっているものを,世界史上唯一無二の独自性をもつ〈合理主義〉にみて,その検証を,近代資本主義の特殊に合理的な精神構造(エートス)とプロテスタンティズムの合理的エートスとの歴史的関連の問題として解明した点に現れた。〈エートスEthos〉という用語は,1919年の論文の改訂のときに,ウェーバーが数ヵ所新たに挿入したり,〈倫理〉を〈エートス〉に書き替えたりしたもので,宗教倫理(プロテスタンティズムの〈倫理〉)に深く由来しつつ近代の資本主義の経営,生産,労働の特殊な精神的傾向(=エートス)として形成されたもので,きわめて重要な概念である。…
…これは古代から近代にいたるまでの倫理学の長い歴史を通じてその一つの中心問題たるの地位を確保してきたが,現代のニヒリズム的状況の中では事情がかなり変わってきている。倫理学は慣習としてのエートスの意義の反省に始まり,徳としてのエートスの把握に終わるという理念的構造をもつが,現代においては徳としてのエートスを一義的に把握しがたいという事情があり,したがって現代倫理学は倫理学本来の理念的構造を完結させがたいというさだめを負うものなのである。
[倫理学の概念]
総じて学とは理論的かつ概念的な認識である。…
※「エートス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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