アメリカのジャズ・トランペット奏者。母方にアメリカ先住民チョクトウ人の血を引くアフリカ系アメリカ人としてオクラホマ・シティに生まれ、ロサンゼルスのワッツ地区で育つ。幼児期はラジオでブルース・ミュージシャン、ジョニー・オーティスJohnny Otis(1921―2012)の音楽を聴き、ブルース、リズム・アンド・ブルースを好むようになる。中学生のころからトランペットを手にし、高校生になると、近くに住む同世代のドラム奏者ビリー・ヒギンズBilly Higgins(1936―2001)と知り合う。2人はリズム・アンド・ブルース・バンドに加わるが、このときチェリーはピアノを担当した。その後チェリーはテナー・サックス奏者ジェームズ・クレイJames Clay(1935―1994)とジャズ・メシアというバンドを組み、ロス周辺で名が知られるようになる。
1956年アルト・サックス奏者オーネット・コールマンと知り合い、以後行動をともにする。1958年コンテンポラリー・レーベルに、コールマンの初レコーディング・リーダー作『サムシング・エルス』のサイドマンとして、チェリーも初レコーディングを経験する。1959年コールマンとともにニューヨークに進出し、ジャズ・クラブ「ファイブ・スポット」に出演、賛否両論の嵐のなかで一躍「フリー・ジャズ」のニュー・スターとして注目を集める。同年、フリー・ジャズの問題作とされたコールマンの『ジャズ来るべきもの』のサイドマンを務める。この時期のチェリーの演奏は非常にコールマンと似ていたため、双子のようだと形容された。
1960年から1962年にかけ、テナー・サックス奏者ジョン・コルトレーン、アルト・サックス奏者エリック・ドルフィー、ソプラノ・サックス奏者スティーブ・レイシーSteve Lacy(1934―2004)、テナー・サックス奏者ソニー・ロリンズらと共演し、アルバムを制作。1963年アルト・サックス奏者ジョン・チカイJohn Tchicai(1936―2012)、テナー・サックス奏者アーチー・シェップArchie Shepp(1937― )らと「ニューヨーク・コンテンポラリー・ファイブ」を結成。その後渡欧し、コペンハーゲンにあるジャズ・クラブ「カフェ・モンマルトル」でライブ・レコーディングを行い、アルバム『ザ・ニューヨーク・コンテンポラリー・ファイブ』The New York Contemporary Five Vol. 1~2(1963)を発表する。
1964年テナー・サックス奏者アルバート・アイラーと共演。翌1965年にはアルゼンチンのテナー・サックス奏者ガトー・バルビエリGato Barbieri(1934―2016)と双頭コンボを組み、ブルーノート・レーベルにアルバム『コンプリート・コミュニオン』Complete Communionを吹き込む。このころから民族音楽への関心が高まり、ヨーロッパ、アジア、インド、アフリカ、南米を訪れ各地の音楽に親しむ。
1970年、ストックホルム郊外に家族と移住、ベジタリアンとなり、玄米だけで暮らしていたこともある。こうした生活から生まれたのが1971~1972年に録音されたアルバム『オーガニック・ミュージック・ソサエティ』で、彼の生活と一体化した音楽の記録である。
1976年テナー・サックス奏者デューイ・レッドマンDewey Redman(1931―2006)、ベース奏者チャーリー・ヘイデンCharlie Haden(1937―2014)、ドラム奏者エド・ブラックウェルEd Blackwell(1929―1992)らとグループ「オールド・アンド・ニュー・ドリームズ」を結成。同じころシタール、タブラ奏者のコリン・ウォルコットCollin Walcott(1945―1984)、ビリンバウ(ひょうたんを共鳴体とし、取り付けた竿に張った弦のうなりを響かせるブラジルの楽器)奏者ナナ・バスコンセロスNana Vasconcelos(1944―2016)らと民族音楽色の強いグループ「コドナ」を組織。1980年代は義理の娘にあたるネナ・チェリーNeneh Cherry(1964― )の加わっているパンク・バンド「リップ・リグ・アンド・パニック」にゲスト出演したりもした。
彼の音楽のスタート地点はコールマンの影響を強く受けた、いわゆるフリー・ジャズであるが、しだいに特定のジャンルにとらわれず、あらゆる種類の音楽を自分の演奏に取り込んでいくようになる。これはジャズがもともともっていた混交音楽としての本質に沿った柔軟な姿勢といえる。
[後藤雅洋]
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